コロナで苦悶する名古屋「介護事業者」の奮闘

耐え忍ぶデイサービス施設の姿に映った教訓

高齢者施設の感染爆発が最も危険。事業者は細心の注意を払っている(写真:Jenius Shieh/iStock)

日本全国で新型コロナウイルスの感染が広がる中で、愛知県名古屋市は110人の陽性患者のうち死者15人(3月25日記事配信時点)と、他都市に比べて死亡者数が突出している。

感染していることに気づいていない、あるいはPCR検査がなされていない「隠れた陽性患者」がもっといるかもしれないが、公式に判明している数字で単純に名古屋市に絞って致死率を計算すると13%強にもなってしまう。そのほとんどが市内の高齢者施設を中心に発生したクラスター(感染者集団)であることが一因だ。市は感染拡大を防ぐため、3月6日に市内2区、126のデイサービス事業者に一時休業を要請した。それから2週間、拡大は一定程度に抑え込まれているとして休業要請は延長されず、事業者はそれぞれに営業を再開している。

苦渋の決断を受け入れた施設の中には、介護業界の環境や働き方を変えたいと先進的な取り組みをしていた事業者もあった。「われわれが休業を続ければ、高齢者の体力低下や家族の負担など別のリスクが発生する。2週間が限界だった」として再び利用者を迎え入れたが、不安はなくならない。その舞台裏と今後の教訓を検証したい。

元IT企業役員が立ち上げた施設も

再開初日の3月21日、名古屋市南区のデイサービス施設「ミライプロジェクト新瑞橋(あらたまばし)」には38人の利用者が戻ってきた。お年寄りは車いすを押してくれる若いスタッフと談笑したり、マッサージをしてもらったり。普段ならほほ笑ましい光景だが、「濃厚接触」を避けられない利用者とスタッフ。マスク姿の裏に緊張感も見え隠れした。

名古屋市南区の住宅街に立地する「ミライプロジェクト新瑞橋」。ガラスとコンクリート、白い壁を基調としたモダンな建物だ(筆者撮影)

「登録利用者約200人のうち、3分の1ほどは認知症が激しかったり、どうしても家でお風呂に入れなかったりという事情があって、この2週間も最小限の態勢で受け入れていました。ほかの利用者には、われわれがひたすら電話をして体調確認などをする日々。今日は普段と比べると実際に来た利用者はまだ半分ほど。しかし、久しぶりの通常に近い業務で、まだスタッフのほうが慣れていないかもしれません」

こう話したのは施設長の牧野和博さん(49歳)だ。目元には疲れがにじむが、取材の合間にも利用者やスタッフの動きに気を配る。見つめる先の室内環境は、従来の介護施設のイメージを覆すように広々としてクリーンで明るい。部屋の真ん中にはソフトバンク社製の人型ロボット「pepper(ペッパー)」が立っている。導入を決めたのはIT企業出身で、8年前にこの施設の運営法人「ミライプロジェクト」を立ち上げた兄の牧野隆広さん(51歳)だ。

隆広さんはマイクロソフト日本法人などを経て2005年、名古屋のITベンチャーだった「エイチーム」の取締役に就任。同社をソーシャルゲームやスマホアプリ、引っ越し見積りサービス「引っ越し侍」などの事業で成長軌道にのせ、2012年には東証マザーズ、東証一部への上場に導いた。

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