そんな隆広さんが上場準備に追われる中、実父が末期がんを宣告されて急死。残された母の将来を考えて、隆広さんは介護問題と介護関連業界に関心を持つ。ちょうど弟の和博さんが介護業界に関わっており、兄弟で介護施設を運営しようと決意。同時にエイチームの役職は非常勤に退き、2016年に開業にこぎ着けたのが「ミライプロジェクト新瑞橋」だったのだ。
敷地面積約340坪、鉄筋コンクリート造3階建ての建物は、デザインや造りにこだわり抜いた。「福祉施設特有のにおいが苦手だったので、窓を多く、天井も高くして換気を徹底的にできるようにした。それは今回のコロナ対策としても有効だったかもしれない」と隆広さん。実際に、これまでインフルエンザで集団感染が発生するような経験はなかったと和博さんも言う。
だが、新型コロナはこれまで以上に「見えない敵」だった。
「無症状の感染者が多いなら、どこにいてもおかしくない。今、どの施設で感染者が出ても責められないでしょう。もしうちから出たら、自ら公表するつもりです」と和博さん。利用者には自宅での検温や、来所時の手指の消毒などの徹底を呼びかける。再開初日は通常のレクリエーションも取りやめた。
しかし、「カラオケ」はどうしてもしたいという声があり、窓を開放した部屋で全員が離れて座り、1人が歌い終わるごとにマイクを消毒するなどして過ごした。
「感染予防と、利用者のストレス低減や体力維持などとの兼ね合いで、どの施設も悩みながら運営することになる。だからこそ、名古屋市も施設名は出さなくても、どんな状況下でクラスターが発生したのかぐらいは正確で具体的な情報を共有してほしい」。和博さんはこう訴えた。
事業所間の情報共有に壁
名古屋市は今回、新型コロナによる感染者が特定できる情報や、クラスターが発生した施設の名称などの発表を避けてきた。一方で、感染者が電車で移動した場合などは、その鉄道会社名や乗車時刻を含めて詳細を公表、同じ車両に乗り合わせた市民に連絡するよう呼びかけた。
これは、感染者や濃厚接触者を把握できる場合は原則非公表だが、不特定多数の利用で把握できない場合は例外という扱いだと、当初から説明されていた。
河村たかし市長は23日の記者会見であらためて「伝染病についてはハンセン病など人権侵害のひどい歴史がある。わしはマイナンバーにも反対し続けており、個人のプライバシーは大事にしたい」と主張。行政が集中的にクラスターをフォローしていることで、感染拡大を抑え込んでいると強調した。
ただし、今回は高齢の感染者が複数のデイサービスを利用していたため、施設間で感染が拡大してしまったのも事実だ。事業所同士の連携や情報共有も不十分で、他施設のスタッフやケアマネジャーらに注意喚起ができなかった。こうした情報共有や複数施設利用の問題について「何ら課題解決がされないまま事業が再開されたのは不安が残る」と別の事業所関係者は指摘する。
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