コロナで苦悶する名古屋「介護事業者」の奮闘 耐え忍ぶデイサービス施設の姿に映った教訓

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これに対して名古屋市の感染症対策室は「現状では、同じ介護事業者であっても感染者の出た施設名を公表するなどの対応は難しい。具体的にどんな状況下で感染拡大したかも十分な分析はできておらず、まずは各施設で手洗いや咳エチケットなどを徹底して自己防衛をしていただくしかない」と答える。事業者間では市に頼らず、独自で情報共有する動きが進み始めている。ただ、「われわれはまだ新参者なので……」と和博さんはここでも見えない壁に不安を募らせている。

2週間の休業を経て再開したミライプロジェクト新瑞橋。普段は定員いっぱいの70人が利用するが、再開初日は38人にとどまった(筆者撮影)

ミライプロジェクト新瑞橋の定員は1日70人。休業前までは月曜から土曜までの毎日、キャンセル待ちが続くほどのフル稼働状態だった。

隆広さんによれば、月の売り上げは平均1500万円前後。一方、支出は人件費だけで1000万円強かけている。会計上は初期投資の減価償却費を計上するため、赤字状態が続く。ただし、デイサービスに隣接する敷地で賃貸マンション経営などもしており、ミライプロジェクト全体では黒字を維持している。

また、「業界全体では人手不足だが、うちはつねに人が来てくれるため求人費用がかからない。キャッシュベースでは毎月、若干のプラス。つまり、キャッシュベースでマイナスにならない、ギリギリの範囲で職場環境の改善や待遇改善にコストをかけ、できるだけいい環境で働き、介護できるように工夫している」と隆広さん。

年休129日を確保するなどの待遇をはじめ、施設は3階の全フロアをスタッフ専用スペースとして1、2階の介護スペースとは完全に切り分け、畳敷きの休憩所や女性専用の化粧室も設けている。

効率よく回していたバランスが崩れた

こうして理想の介護を追求し、資金をギリギリで効率よく回していたバランスが、コロナショックで一気に崩れた。2週間の休業に伴う補償は全額される見込みだが、その先は見えない。

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「濃厚接触が前提のデイサービスで感染リスクを抱えながら、若いスタッフは朝からマスクを買うためにドラッグストアに並び、夜は飲み会にもいけない。こんな状態が続けば誰も介護をやらなくなる」。隆広さんは焦りと危機感を一層募らせる。

世界では、高齢化社会のイタリアで中国を上回る多数の死者が発生。何とか「持ちこたえている」日本でも、高齢者施設からの感染爆発がいつどこで起こってもおかしくはない。最悪のシナリオを招かないために、現状の施設環境の改善や介護人材の確保、事業所と行政の緊密なネットワークを急ぐことが、今回の名古屋の教訓と言えるだろう。医療崩壊はもちろん、“介護崩壊”を防ぐ努力と支援が求められる。

関口 威人 ジャーナリスト

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せきぐち たけと / Taketo Sekiguchi

中日新聞記者を経て2008年からフリー。名古屋を拠点に地方の目線で環境、防災、科学技術などの諸問題を追い掛けるジャーナリスト。1973年横浜市生まれ、早稲田大学大学院理工学研究科修了。

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