五輪延期で日本人が考えるべきスポーツの意義 1年程度の延期は史上初、世界中に衝撃走る

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この延期決定までの経緯で、日本と海外ではアスリートたちの受け止め方は大きく異なっていた。

欧米では、トップアスリートから「中止・延期すべきだ」と言う声が口々に上がっていた。

ギリシャで行われた東京オリンピックの聖火引き継ぎ式で最終走者を務めたギリシャの陸上五輪金メダリストのエカテリニ・ステファニディは「周囲の人を危険にさらしながら練習し続けなければいけない。意味不明だ。延期は不可避に思える。なぜ待つの?」とツイート。

東京オリンピックの出場を決めているドイツのフェンシング選手のマックス・ハーツングは3月21日、ドイツのテレビ局の取材を受けて「予定された開催期間での夏季オリンピックには参加しない」と述べた。

カナダのオリンピック委員会、パラリンピック委員会はIOCの表明に先立ち、東京オリンピック・パラリンピックが2020年から延期されない限り、選手団を派遣しないと発表していた。オーストラリアオリンピック委員会も現状を鑑みて「オーストラリアチームを組むことは不可能だと全会一致で合意した」と述べた。

人命が損なわれる危険がある中で「スポーツどころではない」というのが彼らの認識だろう。

なぜか「通常開催」としかいえない雰囲気

しかし、日本では、IOC、政府の決定以前には「東京オリンピックの通常開催へ向けて努力する」としか言えない空気があった。

JOC(日本オリンピック委員会)の山口香委員が延期の決定以前に取材を受けて「アスリートが満足に準備できない今の状況では、延期すべき」と発言したことに対し、同じ柔道界のドンでもあるJOCの山下泰裕会長は「安全、安心な形で東京大会の開催に向けて力を尽くしていこうというとき。一個人の発言であっても極めて残念」と述べ、山口委員をけん制した。

これまで、少なくとも「命の危険があるなら、私は参加しない」という日本人選手の声は聞こえてこなかった。

聖火ランナーに決まったサッカー女子元日本代表の川澄奈穂美選手が「新型コロナウイルスの影響で、今回の聖火リレー走者を辞退いたします。アメリカ在住のため、移動時にリスクが高いこと、自分が感染しない・感染源にならないこと、チームやファンの方々に迷惑をかけないことなどを考慮し決断しました。一日も早い終息と皆様の健康を心から願っています」と言ったのが数少ない例だろう。

東京オリンピック延期に先立って日本国内では数々のスポーツ大会は中止になった。日本高野連は、センバツ高校野球の開催を中止したが、このときも指導者や選手から口々に「やりたかった」「せめて無観客試合にできなかったのか」と言う声が上がった。

指導者は「決まったことなんだから我慢しろ」と涙を見せる選手に話しかけていた。テレビでも識者やコメンテーターから「高校野球は特別なのだから、やらせてやりたかった」という声が口々に出た。最近は、甲子園に出るような球児でも「文武両道」が進んでいると言われる。

一人くらいは「今の世界、日本の情勢を考えれば、中止は仕方がない。次を目指して頑張る」という選手が出てくるかと思ったが、そうではなかった。

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