パナソニックの経営「わかりづらさ」に募る懸念 企業文化の抜本的な改革は本当に必要なのか

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経営の文学性という点で、もう1つ違和感を覚えるのがカンパニー名や事業名である。すべての名称とは言わないが、例をあげるとすれば、電子部品等を扱う「インダストリアルソリューションズ社」やBtoBソリューション事業を展開する「コネクティッドソリューションズ社」。両社とも幅広い分野を対象にしているからこのようなカンパニー名にしたと言えばそれまでだが、何を展開している組織なのか、詳しく説明してもらわなければ、事業内容をイメージできない。

カンパニー名の字数だけを見ても、インダストリアルソリューションズ社は17字、コネクティッドソリューションズ社は16字も割いている。パナソニックの広報が重視している「日本経済新聞」の1行(11字)には収まらない字数である。口には出さないけれど新聞記者は皆思っているだろう。「もっと気の利いた短い組織名にできないのか」と。

事業名にしても、「空間ソリューション」「現場プロセス」など、極めて唐突な印象を受ける。言い換えれば、合理性のみを表した色気のない表現である。おまけに、日本語と英語(カタカナ)を組み合わせているので、余計に何をしようとしているのかさっぱりわからない。

このようなネーミングは、基本的な広報、宣伝感覚があれば思いつかないはずだ。誰がこのようなセンスのない名称を考えているのだろうか。不思議でならない。

味気ない経営陣のプレゼン

組織名、事業名がわかりづらいだけではない。経営陣が記者・アナリスト会見で発言する言葉も味気がない。数字に基づき、きっちりとまとめられた内容を読み上げるのだが、心に残らない発表で終わっている。内容に哲学、思いが欠けているだけではなく、文学性が乏しいせいか、人が登場することによる付加価値が生じていないと筆者は感じている。

記者・アナリスト会見で配布される資料やパワーポイントは、手が込んでいるが、経営幹部が述べた言葉を録音し、そのまま起こしてみると、本当にインパクトに欠ける表現で始終していることがわかる。だから、ジャーナリストやアナリストからも、「抽象的で具体性がない」「わかりづらい」と批判されるのだろう。

パナソニックは大衆に寄り添うようにして歩んできた会社である。家電という大衆目線で開発しないと受けないという宿命があったから、そうならざるをえなかった。そこに、商人文化の大阪人的感覚が加わり、パナソニック文化が確立された。この企業文化の効用を最大化するため、松下幸之助氏はつねに大衆目線からの発信を心がけていた。社内外を問わず大衆の琴線に触れる「経営の文学性」を備えていたのである。

近年、BtoBシフトするパナソニックは、長年にわたり蓄積されてきたこの強力な「経営資源」を十分に生かし切れていないのではないだろうか。

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