パナソニックの経営「わかりづらさ」に募る懸念 企業文化の抜本的な改革は本当に必要なのか

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大手術の典型例は、人員整理の代名詞となってしまった「リストラ」である。中村氏以降、この方法がパナソニックでも大胆に取り入れられた。従業員を守る経営をしている場合ではなくなったのである。

経団連の中西宏明会長が「雇用維持のために事業を残すべきではない」と発言し、日本を代表する企業であるトヨタ自動車の豊田章男社長も「終身雇用を守るのは難しい」と同調する姿勢を見せた。もはや、パナソニックが特別な人的資源管理をしているわけではなくなった。

この背景には、アメリカ型の株主重視経営と技術、市場環境の急激な変化がある。企業寿命30年説が古くなり、今や、同20年説が当たり前になってきた。この条件を満たすためには、株主に短期間で変化する姿を見せ、利益を創出しなくてはならない。そこで施される即効性のある対策が、固定費を削減する「破壊」である。

従業員の長期雇用を優先し、変化よりも持続を重視してきた日本企業は、なかなか破壊に踏み切れなかった。だが、日本のビッグビジネス経営者たちは、そんなのんきなことを言っていると、瞬く間にグローバル競争の敗者になってしまう、と信じ込むようになってしまった。この考え方については熟考の余地ありだが、パナソニックの従業員が、自ら変革しようとしないあしき安定志向に陥っているとすれば、津賀社長が企業文化を変えたくなるのも納得がいく。

会社にい続けても起業力が求められる時代に

今や、独立型起業だけでなく、会社にい続けても新事業を創造する起業力が求められるようになってきた。中西会長、豊田社長、そして津田社長も終身雇用のすべての要素が悪だとは言っていない。激変、激化するグローバルな競争環境に合わせて、従業員に前向きな意識改革を求めているとも取れる。

では、最近の津賀社長およびパナソニックは、なぜ、メディアからかくも叩かれ、アナリストからも辛辣な評価を下されるのか。もちろん、日本を代表する電機メーカーが、業績でいい結果を出せていない、というのが最大要因である。だが、筆者は、同社が有する非常に重要な経営資源が、創業者がいなくなってから、徐々に劣化してきたため、「わかってもらえないパナソニック」になってしまったのではないかと見ている。

その非常に重要な経営資源とは、筆者が言うところの「経営の文学性」である。このような表現を使えば、『ストーリーとしての競争戦略』(楠木建・一橋大学大学院教授著、東洋経済新報社刊)の受け売りかと思われるかもしれない。が、「大きな成功を収め、その成功を持続している企業は、戦略が流れと動きを持った『ストーリー』として組み立てられている」と説く楠木氏の論と、「経営の文学性」は似て非なる概念である。

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