「オンラインで授業」先生たちの試行錯誤の日々 突然の休校措置が切り拓く未来の教育とは

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オンライン講座はZoomを使い、午前10時から午後3時まで日替わりで「言葉とオノマトペ」「SDGs」「宇宙」などさまざまなテーマで展開。プライバシーに配慮し、顔出しNGの場合はビデオオフで参加できる。画面に表示する名前も本名ではなく、ニックネームや下の名前だけにした。

期間中を通して講師を務めたのは、ミライLABO経営企画室の新居真由香さん。ほかにもSNSで講師を募集したところ、趣旨に賛同したアーティストや専門家の参加が実現した。

不登校の子どももビデオオフで参加

取材で訪れた日の講義は、「アート」がテーマ。午前中は新居さんが進行し、絵を見て物語を想像する課題に取り組んでいた。

最後は数人ずつのグループに分かれて、物語を発表。自分で描いた絵に物語をつける子もいて、実際に絵を見せ合いながらコミュニケーションが取れていた。引き続き、午後からは“楽描きエーター44”こと野上義史さんが講師を務め、「1人1人がアーティストになる」というテーマで作品づくりに取り組んだ。

アーティストや専門家などが講師を務め、学校でも塾でも体験できない学びをリアルタイムで提供した(筆者撮影)

双方向のコミュニケーションは子ども自身の参加意識を高めるとともに、講師の進行によって新しい知のキャッチアップにつながりやすい。ほかの日には企業とのコラボ企画も複数行われ、子どもたちの感性や表現力を養った。

講義中は講師や発言者以外、マイクをミュートにしているが、お昼休みや休憩時間はマイクをオンにして自由な会話を許可。連続して受講している子ども同士が仲良くなり、他愛もない話をしている姿も見られたという。

新居さんもオンラインのままお昼ご飯を食べるなどしつつ、子どもとおしゃべり。子どもを留守番させなければいけなかった家庭や、保護者が在宅していてもリモートワークや家事で忙しかった家庭にとっては、大きな助けとなったのではないだろうか。

また普段、学校に行けていないという子どもがビデオオフで参加し、楽しく取り組めたという例や、学校では発言が苦手だけれどオンライン講義なら発表できた、という声も寄せられた。新居さんは学校でも塾でもない、第三の「子どもの居場所」がオンラインでも作れることを実感したという。

「私たちのオンライン講義を通じて笑顔になってくれたお子さんが少しでもいてくれたのなら、本当にやってよかった」(新居さん)

外出が制限される緊急時でも、子どもたちの学びを止めない。そんな社会の実現に向け、試行錯誤が始まっている。先行きの見えない日々だが、この先にはどんな未来が待っているのか。今こそ、子どもたちの教育に希望を見いだしたい。

吉岡 名保恵 フリーライター

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よしおか なおえ / Naoe Yoshioka

1975年和歌山県生まれ。同志社大学を卒業後、和歌山県の地方紙「紀伊民報」で記者として勤務。結婚を機に退職し、国立大学医学部の非常勤職員などを経てフリーに。現在はライターとしてビジネス、教育、ライフスタイルなどを中心に幅広く取材やインタビューを担当。大学時代にグライダー(滑空機)を始め、(公社)日本滑空協会の機関誌で編集長も務めている。

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