橋下徹氏「交渉には合法的な脅しも必要だ」 相手と「敵対関係」にあるときの交渉術

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府庁職員から、「知事が市町村役場に出向くと市町村長たちは喜びます」と聞いていたので、とにかく全部回ろうと考えた。その際、各市町村が府の支援を必要としている課題がある現場にも足を運んだ。そして1カ月ほどの間に集中して、43市町村長をすべて訪ねた。府庁職員の言うとおり、各市町村長の多くは「知事がうちの役所に来てくれたのは初めてだ」と好意的な反応を示してくれた。

これは、交渉の中身そのものではなく周辺部分の話ではあるけれども、こちら側の姿勢の示し方次第で交渉がまとまるかどうかに影響してくる場合があるという一例だ。市町村長たちを府庁に呼びつけて、補助金カットの話をしても、それに従ってくれるわけがない。

相手方のところに出向くことは、こちら側にとって、少々の時間と労力をかけることはあってもそれほどの負担になることではない。基本的には持ち出しはない。しかし、相手方である市町村長たちの側は「大阪府知事がわざわざ自分の役所に来てくれた」ということをかなりの利益として感じてくれる。

このような状況を作り出すことは、交渉を始めるにあたって、こちら側にとって非常にいい環境となる。こちら側はマイナスにならず、相手にとってプラスになるものの好例だ。

重要なのは「仮装の利益」というノウハウ

また、相手が困るような環境をあえて作り出し、それを取り除くことが相手にとって利益になるように見せる方法もある。これは、先ほどの例と異なり、こちら側がわざと相手には利益のように見える環境を作り出すもので、僕が「仮装の利益」と呼んでいるものである。

この「仮装の利益」もこちら側には持ち出しはなく、交渉においては、まさにこの「仮装の利益」を作り出すノウハウこそが最も重要であると言っても過言ではない。

ビジネスの世界では、期限の設定などが「仮装の利益」としてよく使われる例だ。初めに厳しい期限を言っておいて、交渉過程で期限を延期する。相手が「とてもこの期限では無理だ。期限を延ばしてほしい」と言ってくると、こちら側が期限を延ばすことは相手に利益を与えたように見える。

こちら側は、わざと厳しい期限を当初に設定しただけで、期限を延ばすことは当然の腹づもりなので、とくに何の持ち出しはない。しかし、相手は期限の延期を利益と感じてくれる。まさにこちら側が「仮装の利益」を作り出したのだ。

もちろん、相手が期限の延期を利益だと感じてくれなければ利益を与えたことにならないので、相手が「何を利益と考えているのか」を探ることが、「仮装の利益」を作り出す決め手となる。

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