それでも今回、倍増を強調したことについて、日銀の政策決定メンバーだった(2012~17年)野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「(株価の急落など)市場のリスク回避と日銀の財務への配慮から決められたものだろう」と分析する。
財務への配慮とは、ETFの含み損に関するリスクだ。日銀の保有するETFは時価で約30兆円。損益分岐点は日経平均株価で1万9500円程度とされている。すでにその水準を下回り、引き当てが必要なため、株価下落を食い止めたいというのが本音だろう。
日銀の政策アピールもむなしく、3月16日の日経平均は前週末比429円安の1万7002円で終えた。3月17日にはETF買い入れをこれまでの1002億円から1204億円まで増額。日経平均は前日比9円高の1万7011円となり、ひとまず下落はおさまった。ただ、自らの財務毀損リスクがある中、ETF買い倍増というカードを切っただけに、手は限られる。さらなる株価下落を受けて、一段と買い入れを増やすのは難しい。
もはやサプライズは起こせない
今回、手をつけなかった金利引き下げについて、黒田総裁は「マイナス金利(現行はマイナス0.1%)の深掘りは可能」と主張する。しかし、金利をさらに引き下げれば、金融機関の収益にダメージを与える。
黒田総裁は「(金利調整で)経済が拡大すれば、金融機関の収益にとってもマイナスではない」としているが、2016年のマイナス金利導入以降も、貸し出しは思うように増えず、金利低下の影響で銀行の業績は悪化してきた。
金融庁が指標にする、貸し出しや手数料収入を合計した本業利益は、連続5期以上赤字の地方銀行が27行(全体の約3割)ある。マイナス金利の拡大は、プラスの効果よりもマイナスの効果のほうが大きい。
前出の木内氏は、今後の政策余地について、1ドル100円を切るほど円高が進んだ場合、「1回分だけ残された(緩和策での)マイナス金利深掘り」があり得るという。東短リサーチの加藤出社長は「今回、日銀もECBも利下げを見送ったことから、マイナス金利深掘りのハードルはかなり高いだろう」とし、有力な緩和策はほぼないとみる。
一方、大幅な利下げを打ち出したFRBに対して、マーケットの反応は冷ややかだった。3月16日のダウ平均株価は前週末比で2997ドル安と過去最大の下げ幅を記録した。コロナショックの影響が長引いた場合、どの中央銀行もサプライズ緩和を打ち出すことは難しそうだ。
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