三菱グループ「87万人組織」の知られざる正体 150年目の名門財閥は今も強く結びついている

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ただ、現在の金曜会のあり方は、より緩やかなものに変わりつつあるのが実態のようだ。その活動内容は、トップ同士の「親睦会」というのが公式見解だ。活動内容は、以下の3つ。①社会貢献活動の審議、②新たに三菱を関することになった企業の紹介、③有識者の講演。だが果たして、多忙な首脳陣が親睦のためだけに一同に会するだろうか。

出席する複数の首脳陣に話を聞くと、単なる親睦会には留まらないその役割が明らかになってくる。それが、三菱というブランドの毀損を防ぐという役割だ。グループ内には、社名や商標の使用を審議する「三菱社名商標委員会」と呼ばれる組織が存在する。だが、「その役割を実質的に担っているのは金曜会」(ある首脳)。

御三家でも個々の経営課題に関与する権限はない

たとえば、2016年に三菱自動車が日産自動車の傘下に入った際には「三菱という社名を使い続けていいか真剣に議論した。話し合いの結果、グループの価値観を共有する限りは三菱の名前を冠していい、という結論に至った」(前出の首脳)。ただ、あくまで検討の対象になるのは商標であり、「御三家であっても、個々の企業の経営課題に関与する権限はない」(別の首脳)という。

三菱の主流企業の多くは、丸の内周辺に本社を構える。物理的な距離の近さも、結束力の源泉だ(撮影:今井 康一)

こうした状況下、グループを結びつけるのは「三菱」という無形資産である。グループでは、戦前に定められた心得「三綱領」が共有されている。「所期奉公」(事業を通じて社会への貢献を図る)、「処事光明」(公明正大で責任のある行動を取る)、「立業貿易」(グローバルな視野で事業展開をする)の3つが、グループのアイデンティティーとなっている。企業としてはバラバラになっても、個社がこの理念を体現した経営を行うことがグループ全体の利益につながる、という意識が求心力となっている。

グループ企業が対処すべき課題は多い。日本国内の市場をターゲットに、重工業産業を強化することで発展してきたグループは、グローバル化やデジタル化という新たな潮流にどう立ち向かうのか。150年目の節目を迎えた三菱は、変節点に立たされている。

『週刊東洋経済』3月21日号(3月16日発売)の特集は「三菱150年目の最強財閥」です。
印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者、東洋経済オンライン編集部、電機、ゲーム業界担当記者などを経て、現在は『週刊東洋経済』や東洋経済オンラインの編集を担当。過去に手がけた特集に「会社とジェンダー」「ソニー 掛け算の経営」「EV産業革命」などがある。保育・介護業界の担当記者。大学時代に日本古代史を研究していたことから歴史は大好物。1児の親。

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