まるで戦時中「人が消えたイタリア」の現状 医師を圧倒する疫学的災難と指摘する声も

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シコローネさんは、恋愛は旅行の正当な理由ではないと政府が規定していることを承知していた。だから、いつボローニャに戻って将来の夫と一緒に過ごせるかわからなかった。「彼といつ再会できるかわからない」と彼女は話す。

街頭は戦時の雰囲気がするという高齢者もいた。毎朝6時に、イタリア市民保護局の当局者が全国中継のカメラ前に現れ、感染者数(3月10日時点で1万149人)と死者数(631人、前日から168人増加)の最新情報を知らせる。これは、災難という意味に追加された儀式である。

「戦争は文字どおり炸裂し、戦闘は昼夜絶えない」

ロンバルディア州のベルガモ市の病院に勤務する医師は、圧倒的な数の患者による医療システムへの負荷の生々しい説明をソーシャルメディアに投稿した。10日、イタリア最大の新聞紙コリエーレ・デラ・セーラにその内容が再掲載された。

「戦争は文字どおり炸裂し、戦闘は昼夜絶えない」と医師のダニエル・マッキーニは書き、この状況を、医師を「圧倒した」「疫学的災害」と呼んだ。「次から次へと不幸な患者が緊急治療室に入ってくる」とマッキーニは言う。「患者はインフルエンザの合併症どころではない。重症のインフルエンザと呼ぶのはやめよう」。

マッテオ・レンツィ前首相は、ウイルスは政府より10日先行しており、政令のような抜本的対策が全ヨーロッパを救済するために必要だとインタビューで語った。「現時点でレッドゾーンはイタリアだ」と前首相は語った。「しかし10日経てばレッドゾーンはマドリード、パリ、ベルリンになる。イタリアはウイルスの止め方を示す必要があり、そうしないとレッドゾーンはヨーロッパ全域になる」と話す。

大流行の影響を受けたベネチアなどの都市があるヴェネト州のルカ・ザイア知事は、厳格な措置を要請する点でロンバルディア州の政治的盟友に同意した。ウイルスを阻止し、医療システムを救済するには、「全面閉鎖」などさらに過酷な対策のほうが、「苦悩を引き延ばすより望ましい」と同知事は語った。

ヴェネト州のヴェローナ市は、アレーナ・ディ・ヴェローナの外は普段はにぎやかな地域なのに今は誰もいない。この場所で、音信不通だった幼なじみと数十年間互いに探しあった末、3月10日涙ながらの再開を果たした。だが、ハグはできなかった。「ルールは守らなければならない」と、アンナ・ブロ(56)は話す。友人が近くに立ったが、近づきすぎてはいなかった。ブロも政府はあらゆるものを閉鎖すべきと考えていて、中途半端な措置ではイタリアの傷を悪化させると心配していた。

イタリアは8日、北部地域のみで移動制限を行った。この制限をコンテ首相が宣言したとき、ルールを試したり、卑怯なことをせず、回避しないよう、イタリア国民に訴えた。

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