――では、成瀬さんにとっての「理想のクルマ」は、どのようなクルマでしょうか?
「このクルマ、もう1回乗りたいな」と直感的に思ってもらえるクルマですね。例えばレストランに行って「おいしい」と感じる時って「どこがおいしい」じゃないでしょ。
「ここはうまいぞ」、「1万円を払ってもいいよ」と思わせる味を出すことが、僕の考えるクルマの理想に近い。
――その実現のためには、数値では見えない感覚や官能性の部分も重要ですね。
数値は結果。それよりも、自分たちの重ねてきた経験のほうが大きい。一つ言えるのは「いい物は味が出る」と言うこと。味は数値では表せないでしょう。
――その経験はどうやって?
この仕事を始めた時、「クルマのことはわからないけど、見たらわかる人間になりたい」と思いました。そのためには走り込む必要がある、多くの物を見る必要がある、さまざまな場所に行く必要がある……と。すると、いろいろな物が見えてきました。
その結果、僕はクルマを見て「ここはおかしい」と思ったり、言えたりと。決して天性の物ではなく、すべては経験がそうさせただけです。
――いつもどのような目線でクルマを開発しているのでしょうか?
僕は「こういうクルマをつくる」と思ったことは一度もありません。常に買っていただくお客様のことを考えています。お客様はわれわれを信じて買ってくれるから、僕は魂を込めてやっています。本気で取り組むからこそ、妥協はできません。
クルマって生き物なんです。計算したら「ダメならダメ」と言う答えしかでてきません。でも「これが違う」、「ああじゃないよ」と対話していくと、違った答えが出てくる。
そういう意味で言うと、クルマって感情がちゃんと人間に返ってきます。だから、僕はテストドライバーではなく評価ドライバー、カッコ良く言うと「ドライビングドクター」かな。クルマを健康な状態でお客様に届けるのが僕の仕事。
――ドライビングドクターになるには?
正しい走りをして正しい判断ができること、クルマからの情報を聞き取ること、その情報を言葉にして伝えられること。つまり「できる/わかる/言える」の3つができる人ですね。
継承される成瀬氏の生き様
筆者は、豊田社長が「もっといいクルマづくり」と語る本当の意味は、成瀬氏の生き様そのものだったのではないかと思っている。
なお豊田社長は、2019年のニュルブルクリンク24時間レースにドライバーとして参戦した際、「スープラをニュルで成瀬さんと一緒に走らせたい、成瀬さんが育てたメンバーと共に戦う姿を見せたいという思いで参戦を決意した」と語っている。
実は決勝日が命日(6月23日)と重なり、豊田社長は成瀬氏が亡くなった時間帯にステアリングを握った。
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