ロシア対外諜報のトップが語る日本との関係 日本は良き隣人、アメリカの存在が問題だ

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セルゲイ・ナルイシュキン/1954年10月レニングラード生まれ。大学卒業後、1980年代にベルギーのソビエト大使館で経済担当として勤務。経済情報の取得に携わったとみられる。1992年よりサンクトペテルブルク市でプーチン副市長のもと経済部課の課長、2004年政府官房長(大臣)に抜擢され、2007年副首相兼政府官房長、2008年大統領府長官、2011年12月から下院議長。2016年10月対外情報庁長官。ロシア歴史学会会長。英語、フランス語が堪能(写真:筆者撮影)

石川 ではあなたは、日米安保条約はある意味でロシアに向けられたものと考えているのですか。

ナルイシュキン 条約そのものではないのです。これは日本が決めることであり、私たちは日本のことは尊敬しています。でも条約のもう1つの参加国が問題なのです。あなたの最初の質問ですでに答えましたが、この国は衝動的、攻撃的な外交政策をとっています。

ここ20年を見ても、たとえばユーゴスラビアの空爆があります。ヨーロッパの近代的な国家の首都が空爆されたのですよ。まったく現代の野蛮行為です。そしてイラク戦争。ここでは最も少ない試算でも30万人が死んでいます。おそらく100万人死んでいるかもしれません。そしてリビア。このような攻撃的なアメリカの外交政策を心配しています。

一方、世界の戦略的な安定を維持してきた条約について見てみましょう。ABM(弾道弾迎撃ミサイル制限)条約をアメリカはひねりつぶすように破棄してしまいました。そしてINF(中距離核兵器)全廃条約も同じ運命をたどりました。イランの核合意から脱退したのもアメリカです。ですから、日米軍事同盟の一方の当事者がアメリカであることを懸念せざるをえないのです。

両国間にはまず、平和条約が必要だ

石川 私は日米安保条約と日ロの平和条約は共存できると考えています。あなたの考えは。どのようにすれば日米安保と日ロ平和条約が共存できると考えるのですか。

ナルイシュキン 私の意見を言わせていただければ、日本が中立国であればよいと思います。理想をいえばね。中立国の立場です。日本への脅威というものは、私は何も存在しないとみています。もちろんそれは日本が主権国家として自分で決めることで、干渉するつもりはありません。ただ私の意見を言っただけです。

石川 しかしわれわれの周辺の状況を考えると、中立国になれば、自分の安全は自分で守る必要があります。日本としても今よりも軍事力を強化して、自主防衛をしなければなりません。

ナルイシュキン それはそうでしょうね。でもヨーロッパを見てごらんなさい。中立国はありますよ。生活レベルは良く、平和に暮らし、だれも彼らを脅かさないし、彼らも誰も脅かさない。スイスやオーストリアを見てください。あるいはスウェーデンも。

石川 でもわれわれの周辺には北朝鮮がいますし、中国も軍事力を拡大しています。もっとも中国とは今年、習主席の訪日予定もあり、パートナーでもありますが。

ナルイシュキン あなたもそう言ったじゃないですか。中国の側から日本に対して悪い考えというのはありませんよ。中国と日本は隣国でしょう。日本とロシアが隣国なように。日本はロシアの脅威じゃないし、ロシアも日本の脅威ではありませんよ。

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