ロシア対外諜報のトップが語るアメリカと中国 中国は同盟国ではないが特権的な関係にある

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(筆者あとがき)
写真はあたかも図書室のようであるが、最後に写真を頼むと、この書棚の前のテーブルをセットされた。インタビュー自体は、レストランの個室でお茶を飲みながらの談話形式だった。テーブルにはブドウやリンゴ、オレンジなど果物が山と積まれていた。私は赤いマリーナ(ロシアのラズベリー)のハーブティーを飲んだ。とても質が良かった。ナルイシュキン氏はコーヒーを飲み、時折、ブドウを頬張った。
ビデオはNGだが、録音はOK。執筆内容はご自由に、ということだった。私はフリーのジャーナリストとして会うと伝えていたが、ナルイシュキン氏もSVR長官として公式にインタビューに応じたのかというと、それは少し違うのかもしれない。お付きもプレスサービスもノートテーカーもまったくいなかった。
中国との関係について「軍事的同盟関係」を明確に否定したうえで、「特権的な戦略的パートナー」と述べた点が注目される。「特権的」との表現は初めて聞いたが、ロシア語も英語のprivilegeからくる言葉だ。ロシアとしては、中国との2国間関係の重要性を意味するだけでなく、アメリカに代わるとは言わないが、同等の役割を果たすという意味で「特権的な役割」があるということを強調したかったのであろう。
米ロ関係については、「低いレベル」というときに、手をテーブルの下におろして表現した。アメリカを非難する言葉には皮肉と棘が含まれていた。しかし対外諜報機関どうしとしてのCIAとの関係については対テロ分野を中心にかなりの協力関係にあり、そのことが実際のテロの防止に役立っていることも強調した。政治は政治、諜報の世界の実務的な関係は大切だというメッセージが込められていた。アメリカを非難する言葉は辛らつではあるが、口調や全体の雰囲気からは敵意というものは感じられなかった。
(ナルイシュキン長官が日本との関係を語る第2回は13日金曜日に公開予定です)
石川 一洋 ジャーナリスト

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いしかわ いちよう / Ichiyo Ishikawa

NHK解説委員。近畿大学客員教授および総長特別補佐。1982年東京大学文学部ロシア語ロシア文学科卒。同年NHK入局。秋田、青森の放送局を経て、1988年報道局取材センター国際部記者。1992~96年モスクワ支局、96年から国際部デスク。1999年のキルギス日本人拉致事件や2001年の911同時多発テロ以降のアフガン北部タジク取材などを指揮。2002~07年モスクワ支局長。2007年NHK解説委員、2010年NHK解説主幹。2017年NHK退職後も解説委員として「時論公論」、「おはよう日本・ここに注目」「キャッチ!世界のトップニュース」に出演中。ロシア・旧ソビエト連邦、安全保障などの専門家として講演多数。東京大学EMP講師、サンクトペテルブルク経済フォーラムやウラジオストク東方フォーラム等のモデレーターも務める。

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