トヨタ、副社長廃止で注目される3人のキーマン すべての肩書をなくし執行役員をフラット化

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抜擢人事といえる近氏や前田氏のほかに、チーフオフィサーの中で重責を担うことになるのが、開発出身の寺師茂樹氏だ。ルロワ副社長からチーフ・コンペティティブ・オフィサーを引き継いだうえで、新設されるチーフ・プロジェクト・オフィサーも務める。この職務は「『特命全権大使』にあたり、水素や中国関係の対応をする」(トヨタ幹部)という。

豊田社長(左)は社長就任11年目。新設されたチーフ・プロジェクト・オフィサーに就く寺師氏(右)。特命全権大使として責任は重大だ(撮影:風間仁一郎)

トヨタにとって、最重要市場の1つが市場規模がもっとも大きな中国だ。2019年の販売台数は162万台と初めて日本の販売台数(161万台)を上回った。市場の大きさもさることながら、中国はエコカー普及の商機と見る。2018年に李克強首相がトヨタ自動車北海道を訪問した際、環境技術の協力を要請されたことが転機となった。

2019年には名門の清華大学と連合研究院設立で合意し、燃料電池車をはじめとする電動化技術で中国との関係を強化。トヨタは2020年代前半に電気自動車を世界で10車種以上売り出す計画で、まず2車種を中国で投入する。

寺師氏は走行中に二酸化炭素などを排出しないゼロエミッション車の開発に取り組むトヨタZEVファクトリーのトップも務める。これまでの実績から判断し、「特命案件」を担当するのにふさわしいと判断したとみられる。

「トヨタは大丈夫だと思うこと」が脅威

世界的に自動車市場が軟調な中、トヨタは2019年度も前年度比1%増の1073万台を計画する。社長就任時の2009年、「トヨタ丸は嵐の中の海図なき航海に出た」と語った。2018年度に日本企業として初めて売上高30兆円を達成した際、豊田社長は「最大の脅威は、トヨタは大丈夫だと思うこと」と発言し、慢心に対する強烈な危機感を示した。

豊田社長は3月4日の労使会議の場で、4月からの役員体制について、「まだまだスタートポイントに立ったばかりの『過渡期』であり、今後も随時見直しをしていく」としている。自動車業界の大変革期を乗り切るため、あらゆる面で機動性を高める意味でも、人事制度の聖域なき改革は不可欠だろう。そして、役員や社員が存分に能力を発揮できる環境をきちんと整備できるか。社長12年目が近づく中、豊田社長の責任はますます重くなっている。

木皮 透庸 東洋経済 記者

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きがわ ゆきのぶ / Yukinobu Kigawa

1980年茨城県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修了。NHKなどを経て、2014年東洋経済新報社に入社。自動車業界や物流業界の担当を経て、2022年10月から東洋経済編集部でニュースや特集の編集を担当。

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