「自宅待機」を無視する患者に問われる法的責任 故意に病気をうつすと刑事罰を受けることも

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――意図的に「ウイルスをばらまく」と罪に問われる可能性はありますか?

男性はコロナウイルスをばらまいて他人に感染させる意思でタクシーや飲食店を利用しているようですから、実際に周囲の人や相手に感染させた場合には傷害罪(刑法204条)の罪責を負う可能性が出てきます。

傷害罪というと一般的には物理的に殴ったり蹴ったりしてケガをさせる場合を思い浮かべますが、人の生理的機能を害することも傷害罪になります。例えば、過去の裁判例でも性病による病毒の感染が傷害罪に該当するとされた例があります(最高裁/昭和27年6月6日判決)。

今回の男性も他人に感染させる意思を有していたとすれば、傷害罪の故意が認められます。そして、実際に他人にコロナウイルスを感染させた場合には人の生理的機能を害したことになりますので傷害罪が成立します。

さらに感染者が死亡した場合には傷害致死罪(刑法205条)が成立する可能性も出てきます。傷害致死罪はいわゆる結果的加重犯という類型です。傷害の意思があれば足り、それ以上に死亡させる意思まで有している必要はありません。

ただし、傷害致死罪が成立するためには傷害と死亡との間に因果関係が必要です。例えば、被害者が感染後、短期間のうちに死亡するなど感染させたことと死亡との間の因果関係が明確に立証できることが必要です。このような場合であれば、傷害致死罪の成立も認められます。

感染がわかった人、出歩きは防止できないのか?

――そもそも感染者に対して、自治体は強制力を持たないのでしょうか?

コロナウイルスは感染症法に基づき指定感染症に指定されたことから、都道府県知事は感染者を強制入院させることもできます(同法19条3項)。ただし、現行法上は強制的にできるのは入院させることだけなので、身柄を拘束するなどして行動そのものを制限することはできません。

したがって、感染者が自宅待機要請を無視して外出すること自体を制限することはできないことになります。陽性が発覚したらただちに強制入院させるなどの措置を取ることで感染拡大を予防するしかありません。

澤井 康生(さわい やすお)弁護士
警察官僚出身。企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士試験にも合格、企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。現在、朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。楽天証券ウェブサイト「トウシル」連載。新宿区西早稲田の秋法律事務所のパートナー弁護士。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。
事務所名:秋法律事務所
事務所URL:https://www.bengo4.com/tokyo/a_13104/l_127519/

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