韓国「パラサイト」の聖地を回って見えた真実 アカデミー賞映画の舞台は格差を映していた

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店には笑顔のおばちゃんがいたので話を聞いてみる。

ロケ地になった商店。焼酎を飲んでいた店頭の小さなテーブルもそのままある(筆者撮影)

「日本人が一番、(聖地巡りに)来てくれるね。今朝も1人来てくれた。さっきまではインドネシアの人が来ていたよ。お店の中の写真も撮って!! みんなに教えてあげて」

と楽しげに話してくれた。

お店の横の路地の先には、高い階段が見える。劇中でも出てきたため、その階段のあたりで記念撮影をしている女性たちもいた。

パラサイトと共にアカデミー賞候補になっていた『ジョーカー』に登場したような、かなり険しい階段だ。

映画『ジョーカー』に登場したような、かなり険しい階段(筆者撮影)

映像にするならば見栄えがするけれど、普段住んでいたら大変だ。同行者は「韓国では、坂がキツくて人が住みづらい場所がスラム街になっている場合が多いです。タルトンネと呼ばれている場所もあります」と教えてくれた。

タルトンネとは漢字で書くと「月の町」だ。月に届きそうなほど高い場所にあるから「月の町」だ。ロマンチックなネーミングとは裏腹な、とてもシリアスな理由がある。

貧困層が居住地としては許可されていない高所に不法滞在して作った街なのだ。

一部のタルトンネは観光地化したりして残っているが、多くのタルトンネは取り壊されてしまった。

僕も、ソウル最後のタルトンネと言われているペクサマウルに行ったことがある。

「蘆原区中渓洞104番地」にあり、104の発音が「ペクサ(白砂)」なので、ペクサマウル(白砂村)と呼ばれている。

治安はさほど悪くなさそうだった

建物はかなり古く、まるで廃墟のような物件も多かった。

ペクサマウルの様子(筆者撮影)

ただ治安が悪いかというと、そういう感じでもなかった。とにかく人けが少ない。たまにすれ違うのは、ほとんどが老人だった。お年寄りが凍った斜面を上っていくさまは、はたから見ていてもとてもハラハラした。

ちなみにソウル最大のスラム街は、オシャレな街として人気のカンナムにある。クリョンマウル(九龍村)と呼ばれる地域だ。ペクサマウルほど高山地域ではないが山の裾野にあるわずかな平地スペースにぎっちりとバラック小屋が建ち並んでいる。

九龍村も決して人通りは多くなかった。空き家になって立ち入り禁止になっている家もあった。やはり見かけるのは老人が多い。まれに通学途中の小学生も見かけたから、家族で住んでいる人もいるのだろうが、あまり数は多くはないようだ。そしてクリョンマウルもいつ取り壊されるかわからない状態にある。

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