それを裏付ける調査報告書が2月28日に公表された。中国に入った世界保健機関(WHO)の調査報告書だ。これによると、感染した人の致命率は3.8%だったが、80歳以上の高齢者の致命率は21.9%と高率だ。一方、感染初期の1月1日から10日までの致命率が17.3%だったのに対して、2月1日以降は0.7%と改善しているのは、医療の水準が向上したためと分析している。
つまり、リスクは高齢者に集中していることと、医療機関が混乱していた時期の致命率は高く、医療水準が整ってくれば助かる患者が増えることを示している。
未知のウイルスの怖さは、感染・発症してしまうと本人の免疫力や体力に頼るしかないことだ。今回のウイルスの病原性は、季節性のインフルエンザ並みと言われているが、インフルエンザには効果の確認されている抗ウイルス薬がある。だが新型コロナウイルスに効く薬はない。発症すれば対症療法しかないなかで、多くの高齢者の命がなすすべもなく奪われていく。
高齢者を守るためならもっと違う手がある
安倍首相の休校要請は、高齢者を守ることにつながるという側面はなくはない。小中高校生の集団感染を防止することによって、高齢者や糖尿病患者など持病を持つ弱者への感染を防ぐという理屈は、よくインフルエンザワクチンを接種する理由にも挙げられている公衆衛生上の社会防衛の要諦だ。
であれば、安倍首相もこの点をきちんと説明すればよいものを、2月29日の記者会見で休校要請の理由に挙げたのが「何よりも子どもたちの健康、安全を第一に」だった。少しでも専門家の意見を聞いていたら、「弱者である高齢者を守るための要請です」と付け加えていたはずだ。
高齢者を守るためには、休校を要請するより、高齢者施設や高齢者世帯への出入りに注意を促したほうが、よほど効果がある。高齢者が入院している病院のなかには、家族以外の面会を禁じているところもあるが、家族でも感染している可能性は否定できない。面会ができない代わりに、サポート体制を築かない限り、今度は病院・施設が疲弊してしまう。
高齢者施設でも不満がたまっている。私の知るサービス付き高齢者住宅では消毒液が不足している。ボランティアが買い出しをしているが、消毒液がないから食品を手渡すときにも気を遣う。介護を要する高齢世帯に通うヘルパーらのマスクや消毒液も不足するなど、感染防止対策が十分ではない。
感染と隣り合わせの現場で、スタッフを守れないのは、まさにクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で経験したことではないだろうか。政府によるテコ入れが必要なのは、こういった現場ではないだろうか。
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