「新型コロナ」は国際協調の契機となりうるのか 「感染症協力」をめぐる国際政治と「地政学」

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たとえ北朝鮮が国際社会やアメリカからの支援を受け入れることになったとしても、感染症をめぐる協力は、非核化に関する両国の立場の違いを埋め合わせるには、あまりにも微力であろう。

感染症協力を国家間の信頼醸成につなげられるか

感染症の管理に、国際政治が大きく影響を与えうる今日、われわれはどのように感染症と向き合えばよいだろうか。もちろん、優先されるべきは人命の保護であり、政治の力を、資金の確保や円滑な支援体制の整備など、感染症対応の円滑化に活用していく必要があるだろう。

また、感染症に共に闘うことで、関係国間の信頼を育み、緊張する関係を友好的なものへと変えることができれば、さらに望ましい。

ただし、本稿で繰り返し述べてきたとおり、つねにそのような期待が果たされるわけではない。国家は結局、合理的なアクターである。他者と協力することで、例えば国内の感染者数を抑えることができるとか、国際的な名声が得られるとか、得るものが多ければ協力するし、そうでない場合には、自国民の安全を優先し、その結果、例えば渡航中止勧告などを出して、相手国の心情を害することもありうる。

また、そもそも信頼関係が醸成されていない国家間では、感染症への対応をめぐっても互いの不信感が反映され、共に闘うことすら、叶わないことも多い。

今日の国家間関係においては、いくつも争点領域が存在し、それらが総合的に国家間関係を規定している。領土をめぐる問題も1つの争点だし、安全保障協力や経済といった争点もある。感染症の管理はその1つの争点にすぎない。

ただし、その争点は、ほかの争点に比べ、協力することでいずれの国も利益を得やすいという特徴がある。ある国で、感染を抑制できた経験は、他国に生かすことができるし、それぞれの国の情報や知見の共有は、双方の利益となる。身勝手なナショナリズムがはびこる今だからこそ、感染症協力に内在する潜在力を最大限生かす努力が必要だと思われる。

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2020年3.1独立運動の記念式典において、韓国の文在寅大統領は、日本に対し、「共に危機を克服しよう」と新型コロナウイルスをめぐって、協力を呼びかけた。

2月末に来日していた中国外交担当トップの楊潔篪中国共産党政治局員は自民党の二階俊博幹事長との会談で、日中両国の協力を確認した。

日中、日韓はさまざまな問題を抱えるが、根本的な信頼関係は健在である。今回の対応で、揺るぎない協力関係を構築することができれば、たとえ流行が終息した後にも、国家間関係の確たる礎となることであろう。感染症協力に秘められた潜在力を生かすか、殺すか。それは政治指導者の手に委ねられている。

詫摩 佳代 東京都立大学法学部教授

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たくま かよ / Kayo Takuma

1981年生まれ。東京大学法学部卒業。同大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻国際関係論博士課程単位取得退学。博士(学術)。東京大学東洋文化研究所助教などを経て現職。著書に『国際政治のなかの国際保健事業』(ミネルヴァ書房)、『人類と病:国際政治から見る感染症と健康格差』(中公新書)、『新しい地政学』(分担執筆、東洋経済新報社)などがある。

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