「新型コロナ」は国際協調の契機となりうるのか 「感染症協力」をめぐる国際政治と「地政学」

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中国の以上のような取り組みは、大国としての責任感に裏付けられたものである一方で、保健協力におけるリーダーシップが、今の時代、政治的な影響力に結び付くことを熟知しての行動でもあろう。そのことは裏を返せば、対応の誤りが中国の国際的地位に影響を与えうることも示している。

米中対立の影響

貿易をめぐり、対立を深めてきた米中、朝鮮半島の非核化をめぐって進展をみせない米朝関係に関しては、新型コロナウイルスへの対応を契機として、関係改善を期待する声もあるが、どちらも厳しそうである。

米中は、新型コロナウイルス対策をめぐって、再び緊張関係を増している。アメリカが武漢の領事館から職員を引き揚げたことや、中国への渡航中止勧告を出したことを、中国は感染症対策と割り切って受け止められないようである。

中国はアメリカの対応を「国際的なパニックをあおっている」と非難、2月半ばにウォール・ストリート・ジャーナルの記者らが「中国はアジアの病人」というタイトルの論説記事を書いた際には、記者らを国外追放とした。一旦「休戦」に至ったとはいえ、長期に及ぶ非難の応酬は、ここにも深い影を落としているのである。

そのような緊張関係ゆえに、技術的な協力もままならない状態である。かなり早い段階から、アメリカはアメリカ疾病予防管理センターの専門家を中国に派遣する旨、申し出てきたが、中国に受け入れられることはなかった。

2月初旬、トランプ大統領と習近平国家主席の電話を機に、ようやく中国政府は態度を和らげ、数名のアメリカ人が受け入れられることなった。ここ数年、保健協力でリーダシップを発揮してきた国として、また、ライバル・アメリカの支援を得るということに、自尊心が傷つけられるという思いもあるのだろう。国際的なステータスや外交関係を考えず、感染症対応のため、と割り切って支援を受け入れることができればよいが、実際にはそのようにはいかない。感染症の管理には、国際政治が反映されるのだから。

一方、米朝関係に関しても、アメリカの医療支援が米朝の非核化交渉を進める潤滑油になるのではないかという見方がある。しかし、現在、北朝鮮の国境は封鎖された状態で、支援物資の搬入もままならない状況であり、そもそも、北朝鮮に手を差し伸べること自体が難しい状況である。

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