「新型コロナ」は国際協調の契機となりうるのか 「感染症協力」をめぐる国際政治と「地政学」

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アメリカ国務省は当初、ソ連との協力に慎重な姿勢を示していたが、経口の生ポリオワクチンの開発にあたって、米ソの協力の必要性を認識し、アメリカの学者の訪ソを許可した。こうして1956年以降、生ポリオワクチンの実用化に向けた米ソの協力が始まった。

しかし、このときの協力は、生ポリオワクチンの開発にとどまり、それを米ソの政治的なデタントにつなげることはできなかった。

このように、とくに緊張関係をはらむ関係国間では歴史的に、感染症の管理を通じて、政治的な緊張を解くことが期待されてきたが、残念ながら、それがつねに機能してきたわけではない。

感染症をめぐる協力は結局、国家間関係の1つの争点にすぎず、国家間の根本的な信頼関係が存在しなければ、それを政治的なデタントや関係強化につなげることは難しいからである。

中国のリーダーシップ?

新型コロナウイルスをめぐっては、さまざまな国際政治上の争点が連動している。

中でも最も注目されているのが、中国の対応であろう。流行が確認されてからまもなく、習近平国家主席が速やかに対応にあたる姿を内外に示したことは、中国の国際的な位置づけを彷彿とさせるものがあった。

建国以来、中国は外交関係を強化する手段として、あるいは国際的影響力を高める目的で、保健協力を重視してきたが、一帯一路構想を打ち出して以降は、さらに保健協力への熱意を強めてきた。

2014年西アフリカでのエボラ出血熱の大流行に際しても、中国は積極的に対応してきた。アフリカと中国は深い経済交流を続けており、西アフリカでのパンデミックは中国経済に直接的な打撃を与えるのみならず、現地の中国人への影響も懸念されたからだ。

中国はWHOとの関係強化にも力を入れてきている。2017年1月には習近平国家主席がWHOを訪問し、当時のマーガレット・チャン事務局長と会談、一帯一路構想のもと、公衆衛生上の緊急事態、中国製医薬品の活用に関する協定を締結した。

2017年8月には、関係国の保健大臣、WHO事務局長らを招き、一帯一路ハイレベル保健会合を開催、感染症の予防や公衆衛生上の緊急事態への対処、保健政策やワクチンの研究開発に関して協調していくことが確認された。

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