ベン・アフレック「アルコール依存症」との闘い 新作映画は自身の過去を投影している

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最近、アルコール依存症から脱却したことを公の場で語るスターが増えている。いい例がブラッド・ピットだ。これが依存症につきまとうマイナスイメージを弱め、依存の問題を抱える人々が受診を考えるきっかけとなっているかもしれない。

『バラエティ』誌の昨年11月の「復活」特集号の表紙を飾ったのは、酒をやめて20年経つという女優のジェイミー・リー・カーティスだった。ここしばらくの間だけでも、インタビューや回顧録などで依存症について語った有名人はデミ・ロバートにアンソニー・ホプキンス、ジェシカ・シンプソン、デミ・ムーア、エルトン・ジョンなど数多い。

アルコール依存症を乗りこえてきたブラッドリー・クーパーやロバート・ダウニー・Jr.といった俳優らについてアフレックは「とても力になってくれた。深い感謝の念を抱いている」と述べた。またアフレックはこうも語った。「(依存症からの)回復に関して多くの人が見逃しがちなことの1つは、それを通して大切なことを学べるという事実だと思う。誠実であれ。説明責任を果たせ。他の人を助けよ。間違ったときはきちんと謝れと」。

アルコール依存症の役を通し、自分と向き合った

『The Way Back』でメガホンを取ったのはアフレック主演の『ザ・コンサルタント』でも監督を務めたギャビン・オコナーだ(『ザ・コンサルタント』は大方の予想を裏切る大ヒットとなった)。脚本はオコナーとブラッド・インゲルスビー(『ファーナス 訣別の朝』)が共同で執筆した。制作費は約2500万ドルで、撮影は主にロサンゼルスの労働者階級が暮らすサンペドロ地区で行われた。

「ベンは芸術的なやり方で、そしてとても人間的なやり方で、このキャラクターを通して自分自身の問題と向き合い、癒やされようとしたと思う」と、オコナーは電話取材で述べた。

アフレック演じるジャック・カニンガムは深い喪失感にさいなまれる建築作業員だ。彼が落ち着けるのは場末の酒場、入る前から酒の臭いがするような場所だ。毎朝、起きるとまずシャワーを浴びながらビールを飲む。ビール缶が石けん受けの上で揺れている。

ジャックのアルコール依存症のひどさを知らない出身高校の校長は、学校のバスケットボールチームのコーチにならないかとジャックを誘う。だが選手たちの自尊感情はジャックよりさらに低かった。ネットフリックスのドラマ『アメリカを荒らす者たち』に出演したメルビン・グレッグが問題児の選手を演じる。

「ベンにとって最も大変だったのは、実のところバスケットボールの部分だった」とオコナーは語った。「プレーした経験がないのにコートに入るというのは、初めてスケート靴を履いたときみたいなものだから。その部分さえ乗りこえれば、後はとてもうまく行った。そのときにはすでに、酒の問題の実に深く暗いところまで踏み込む態勢ができていた」。

物語の終盤、ジャックが元妻(ジャニナ・ガバンカー)と言葉を交わす印象的な場面がある。ジャックはリハビリ施設におり、面会に来た元妻にきちんと謝罪する。

「私は君を失望させた」とジャックは言う。「結婚を台無しにしてしまった」。

痛々しい場面だ。私生活でアフレックに起きたさまざまなことに思いをいたすとなおさらだ。ガーナーとの間でも、同じような会話を交わしたはずだと思ってしまう。

「感傷的にも不誠実にもならずに償いの気持ちを伝えるのは――彼自身が引き起こした苦しみの説明責任を取るのはとても大事なことだった」とアフレックは言う。

オコナーによれば、アフレックはそのシーンの撮影が終わると、セット内で「魂が抜けたような状態」だったという。

「水門が開いたみたいだった」とオコナーは述べた。「驚かされるとともに心揺さぶられる光景だった。映画の中でも彼自身が投影された瞬間だったと思う。あれはまさに彼だった」。

(執筆:Brooks Barnes記者、翻訳:村井裕美)
(c) 2020 New York Times News Service

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