はたして「MMT」は画期的な新理論なのか暴論か 経済学主流派の欺瞞を暴いた新理論の正体

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こんなプロジェクトを国が始めたら。まあ、普通はインフレが起こるでしょう。それが費用に見合うほどの将来税収を生まないことはまず間違いないからです。

そこでケルトンの議論に従えば増税することになります。そうして増税すれば物価決定式が示すとおりでインフレは抑え込めそうです。でもインフレが抑え込まれれば、宇宙修学旅行計画は合理的であるとされ、次には月世界旅行や火星旅行に計画は拡大するということになるかもしれません。それでインフレが起こればまた増税、というサイクルになります。

この辺りで私たちはケルトンの議論の問題点に気づくことになるでしょう。「インフレ率が限度を超えたら増税」というMMT派のルールは、インフレが起こるような財政活動自体を制約するものではないので、そんな単純なルールを作って安心していると、経済学的には効率が悪い政策の自己拡大サイクルに財政運営が引きずり込まれかねないのです。

そして、それは「インフレ率が限度を超えるまでは緩和」という単純なルールで株価を不自然なまでに釣り上げる一方で、貧富の格差拡大に目を背け続けてきた主流派経済学者や中央銀行たちの姿に重なります。

単純なルールによる副作用の自己拡大というリスクを見逃しているのはケルトンの幼さですが、自分たちが主張するルールに潜む同じ問題に気がつかない主流派経済学者たちや中央銀行たちの問題は、幼さではなく傲慢さが背景にあるだけに、実はケルトンより厄介かもしれません。

政府に財政の自由を与える怖さ

MMT的ルールの問題は、状況を裏返しにしても見えてきます。この際、わが日本政府が、採算重視で「もうかるプロジェクト」を推進したとします。普通の政府は商売が苦手のようですが、普通の民ではできない商売なら成功するかもしれません。

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東京湾を埋めたてて刑法の賭博罪が適用されない大カジノセンターを作るとか、このごろはやり始めた「情報銀行」を作って個人情報を独占管理し、小売業者や金融機関に利用を強制するなどというのは、国のプロジェクトとして運営すれば大儲けできて国の借金が減る可能性だってあります。

そうすると物価は下がりますから減税ということになります。カジノも情報銀行も大成功となってしまいます。

でも、そんなサイクルを回し始めたら、わが日本はカジノ国家にしてビッグブラザー国家への道を猛進することになりかねません。インフレが起こらなければいいというような単純なルールを、しょせんは貨幣価値を操るだけが分担業務の中央銀行に適用するのではなく、中央銀行などよりはるかに万能の国家全体に適用するときの怖さをケルトンたちには認識してほしいものです。

岩村 充 早稲田大学名誉教授

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いわむら みつる / Mitsuru Iwamura

1950年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒業。日本銀行企画局兼信用機構局参事を経て、1998年より2021年3月まで早稲田大学教授。2021年4月より早稲田大学名誉教授。2017年7月に(社)自律分散社会フォーラムを設立し代表理事に就任。『国家・企業・通貨』(2020年2月・新潮選書)、『ポストコロナの資本主義』(2020年8月・日本経済新聞出版)など著書多数。

 

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