はたして「MMT」は画期的な新理論なのか暴論か 経済学主流派の欺瞞を暴いた新理論の正体
さて、このMMTですが、アメリカの経済学界の主流と位置づけられる大先生方からは、拒絶というよりは怒りに近い反応を呼び寄せてしまったようです。
経済学主流派の金融政策に関するコンセンサスは「インフレが生じたら引締め、デフレには緩和で」というもののはずですから、MMTの議論は、そのコンセンサスの領分を通貨の世界から財政にまで拡張するものとして歓迎されてもよさそうなものなのですが、MMTが受けたのは称賛ではなく批判あるいは非難でした。
MMTへの批判や非難の中には、経済政策論における近親憎悪のようなものも混じっているのですが、そうした批判や非難を別にすれば、経済学的に筋が通った批判も少なくありません。なかでも私が重要だと思うのは「金利が動けば財政は物価に影響しない、(赤字覚悟の)財政出動は金利がゼロ下限に達してからのみ意味がある」という命題を軸にしていると思われる批判です。
しかし、そうした批判をしているアメリカの主流派経済学者たちの多くは、バブル崩壊後の日本を「流動性の罠」に陥っていると分析したうえで「金利がゼロ下限に達しているのだから、(財政拡大ではなく)貨幣を増やしてインフレを起こせ」と提言してくれていたのですから、ことほどさように、MMTは、既存の学者たちの矛盾を突いている面があり、それが正統派を自認する学者たちを怒らせるのでしょう。
MMTの難点
MMTに反発する学界主流派の中には、日本でも有名なポール・クルーグマンやケネス・ロゴフあるいはロバート・シラーなど超大物が顔をそろえていますし、実務エコノミストからもサマーズ元財務長官とかジェローム・パウエル現FRB議長なども攻撃側に立つという具合です。
一方で、MMTの主唱者ステファニー・ケルトンは、それまでほぼ無名だった1969年生まれの大学教授です。普通なら臆しそうなものなのですが、私が彼女をすごいなと思うのは、そうした権威筋や実権派の面々にひるまず反論するところです。
このあたりの風景は、はたで見ている分には、彼女があのジャンヌ・ダルクのように映るところもあって、やや不謹慎ながら「よっ、ケルトン!」とでもお声かけしたくなるところもあるのですが、それはやめておきましょう。彼女の主張は、いくら何でも難点が多すぎるからです。
私が思うMMT最大の難点は、財政拡大とインフレとを単純に結びつけている点です。なぜそれが難点になるのかを、私がいつも議論の拠り所としてきたFTPL(物価水準の財政理論:Fiscal Theory of the Price Level)の物価決定式で説明しておきます。
現在の物価水準=(市中保有国債の現在価値+現在の通貨発行量)÷税収など政府における将来収入の現在価値
例えば、育児支援とか教育無償化のような施策を政府の財政負担で推進したとします。財源は国債の発行だとしましょう。そのとき物価にインフレ的な圧力が生じるでしょうか。
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