見えない「新型肺炎クライシス」の本質とは何か なぜ人々はここまで「過剰反応」をするのか

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さらに、危機管理とは別の、経済的ダメージもきわめて大きくなる。

政治は、人々が過剰反応すれば「過剰2乗反応」をしなければならない。あらゆるイベントは中止に追い込まれ、責任逃れ、説明逃れが蔓延する。無駄に、世界は経済活動や社会活動をも止めてしまう。

少数のクレーマーによって正しい行動はゆがめられる

説明逃れのために、イベントを中止にする、というのは、行動経済学的にいうと、大変興味深い現象だ。

「なぜこんなときに開催するのか」「感染者が出たら責任取れるのか」、という一部のクレーマーに対する説明が面倒なので、開催中止にしておく。このクレーマーたちの中には、実際にはイベントに実際には参加しない、謎のある種の野次馬クレーマーが混じっている(実はその方が多い)。彼らがなぜそんな腹いせ、愉快犯みたいな行動を取るのか分からないが、本人たちは決して愉快ではなく、真剣に心配し、怒っている。

「そんな馬鹿な!」というかもしれないが、世論の圧力というのは、まさに「無関係な他人の余計なおせっかいの心配」であり、より具体的に言えば、テレビのワイドショー、SNSでのつぶやきの拡散と言っても良い。巷はこのようなおせっかいによる風評被害、おせっかいによる営業妨害に溢れている。

一方、不開催による不利益を訴えるまともな苦情に対しては、「このようなご時勢ですから」、と言えば済んでしまう。社会的多数派の圧力である。パニックによる群集心理の罠である。サイレントマジョリティ(沈黙する多数派)は多くの場合正しいが、少数のクレーマーによって正しい行動はゆがめられる。さらに今回は、直接、それぞれのイベントに無関係な群集が多数派を占めるから、開催中止という決定が圧倒的に選ばれてしまう。

このように、今回の危機を行動経済学で冷静に分析してみたが、いかにも空しい。分析するよりも、人々の不安を解消させる方法、沈静化させる方法を見つけることに、私は今日から努力したい。そして、その結果を、このコラムに寄稿すると是非宣言したいところである。

だが、群集心理には勝てない、というのが私の長年のバブル研究からの暫定的な結論であり、市場という社会と同様、実際の社会でも、バブルをなくすことに対応する、群衆心理による不安の増幅をなくすことには、かなり絶望的である。それが現時点の、私のマクロ行動経済学的な結論である。

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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