もし批判すべきケースがあるとすれば第2のケースで、かつ、目的関数が非常に不適切な場合、私利私欲による場合である。例えば、選挙のために、わざと感染を拡大しているということがあれば、どんなことがあってもこれを告発しなくてはならない。しかし、今回の場合、それはあり得ない。感染の拡大を最小限に抑え、1日でも早く収束することが、政府にとって何よりも重要であることは明白だ。目的関数の問題は、今回は絶対にない。
では、なぜ今回、政府のパフォーマンスはベストに見えないのか。
これは、さきほどの投資家のパターンで行けば、明らかに、第3のケースである。つまり今回は制約条件が厳しすぎるのである。人が足りない。クルーズ船の船内という極めて難しい環境である。3700人という極めて大人数である。対応する医師、職員、スタッフの数が足りない。新型ウイルスでまだわかっていないことが多すぎる。このような状況では、外部からは想像もしえない厳しさがあるだろう。現段階でできることはすべてやっている。できないから、できないのである。
制約条件がどんどん厳しくなる「負のスパイラル」
このような状況で、「できていない!」 と警鐘を鳴らすとどうなるか。外部の人々は不安になる。パニックに近い行動をする可能性がある。個人個人がこの不安を拡散させることによって、鎮めようとする。だが結果的には社会全体が不安になり、その不安のフィードバックにより、何倍も不安が増幅して自分に帰ってくる。自分が撒き散らしたことで不安が高まったのに、社会が不安にあることで、それに大きな影響を受け、不安になるのである。社会不安のスパイラルとなるのだ。
さらに悪いことに、発信された警鐘と不安は世界を駆け巡り、日本の危機や不安と隔絶された人々は、日本が危険だと思い込むという、事実に基づかないことが、彼らにとっての真実となってしまう。最悪だ。
そして、政府は、社会の不安が倍増した状況で対策に当たらなくてはならない。人々はいろいろな不安を主張する。立場、状況によって、それはさまざまに異なったものである。これらをすべて満足させることはできない。だから、人々のうちの一部の中には必ず不安、不満が増幅される。政府にとっては、彼らに対する説明責任、不安解消努力という厳しい制約条件がさらに加わることになる。そして、政府の対応は、もともとは善意の、ただしナイーブで軽率な警鐘によって、悪化していくのである。
これが今回の危機の本質だ。
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