より深刻なのは、「専門家だと人々に思われている人物」が恐怖を煽るような発信をする場合である。今回は、これがもっとも話題となった。専門家を使った、あるいは専門家自身による恐怖感の煽りが、社会にとって最も大きな被害をもたらす。
原発事故のときも、菅直人首相(当時)自らが、世界的に論理的とは言えない形で恐怖感を煽り、それを世界に拡散、宣伝した。今回は、ある専門家が横浜に停泊している豪華客船に乗り込み、その中の様子が如何に危険かを伝えた。そして、政府の対応が不十分であることを批判し、「ミスが多く、なされるべきことがなされていない」、という事実を、正義感を持って発信した。
「警鐘を鳴らす=社会のためになる」は正しいか?
しかし、彼のSNSやメディアでの告発の意図がどのようなものであったにせよ、彼は大きな誤りを犯している。仮に、彼の指摘がすべて正しかったとしよう。「政府の措置は理想から程遠く、やるべきことをやっていないという状態」が船内で起きていたとしよう。
もし、それをあなたが発見したら、どうするか。
「これは危険な状態だ! 政府の対応はずさんだ、不十分だ」、と正義感を持って告発するだろうか。SNSでも何でも手法がなんであれ、あなたは社会に甚大な被害をもたらすことになる。なぜか。
それは、あなたが、政府がなぜベストな対応をしていないのが、最適化から外れた行動をとっているのか、完全には理解をせずに、ただ、結果だけを見て、それを世界中に通報しているからである。政府がなぜ部分的に失敗しているように見えるのか、まず考える必要がある。
社会のためになろうと思って、事実を告発して警鐘を鳴らすことに、どのような意味があるか。それが社会のためになるのは当然だと思っていると、それは大きな間違いであり、ほとんどの場合は、社会に悪影響を残すことにしかならない。
なぜか。それは、警鐘をならしても現実が改善する可能性はゼロで、逆に悪化する可能性が高いからである。
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