震災被害と戦う「熊本の秘湯」復興までの4年間 「地震被害は4年くらいでは何も片付かない」

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大災害で失われたものは大きい。けれども、変わらず地中から湧き続ける温泉。その自然のエネルギーの力強さに勇気づけられたと河津さんは言う。

地獄温泉周辺は温泉が豊かで、工事中のいろんな場所から源泉が染み出していた(筆者撮影)

決意したとはいえ、復興への道のりは遠い。被害総額約20億円。さらに、旅館も温泉も営業できない状態なので収入はいっさいない。ゼロどころか大きなマイナスからの再スタートだ。

被災した中小企業者等の施設・設備の復旧を支援する国のグループ補助金があるが、補助金額は4分の3で、4分の1は自己負担だ。被害総額自体が大きいので、4分の1といえども自己負担金額だけで相当な金額になる。だから河津さんたちは元の約半分の計画で、全体予算9億7000万円で復興計画を建てた。約7億円が補助金で、自己負担は3億数千万円の借金を背負う覚悟だ。

代表取締役の河津誠さん(筆者撮影)

「補助が受けられるのはありがたいことですが、支払われるのは領収書がそろって検査が終わってからです。だからまず9億7000万円は自分たちで一度支払いをしなくてはいけません。この資金繰りにすごく苦労しました」

銀行からの借り入れは、なかなか許可が下りず困難を極めた。親身になってくれた支店長が、自分の首も覚悟のうえで上層部に直談判してくれたという。

苦しむ人に寄り添ってきた先人の思い

その後も、見積もり後の建設費用の高騰など、なかなか予定どおりには進まない。金額的にも作業的にも苦難だらけ。一部道路も寸断され通うのだって一苦労だ。やめたいと思ったことはなかったのだろうか。

「正直、やめてしまったほうが楽です。当初はやめたいと毎日空想していました」

昔の本館の様子。趣ある和風建築だ。訪れた人が落ち着いて過ごせたのだろう(筆者撮影)

そんな河津さんたちを励ましたのは、旅館を解体する中で改めて気がついた先祖の思いだ。

「土木技術も今とは全然違う昔に、南阿蘇の山奥に旅館を建てるのは並大抵のことではありません。ここは温泉や水が染み出している土地なので地盤が安定していません。

それを、旅館の前に水路を掘って水をせき止めることで、旅館を建てられるようにしたことに解体作業を通して気づきました。すごい知恵と工夫が詰まっています」

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