新型肺炎予防で露呈した日本の医療の「盲点」

「かかりつけ医」制度の未整備があだになった

わが国ではどうか。日本医師会と四病院団体協議会は2013年に、かかりつけ医の定義を提示した。そこでかかりつけ医は「なんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」と定義されている。そして、日本医師会はこれに基づいてかかりつけ医機能研修制度を設け、各地で医師の研修を行っている。

また、2018年度から「主に地域を支える診療所や病院において、他の領域別専門医、一般の医師、歯科医師、医療や健康にかかわるその他の職種等と連携し、地域の医療、介護、保健など様々な分野でリーダーシップを発揮しつつ、多様な医療サービスを包括的かつ柔軟に提供する医師」として、総合診療専門医が新設された。

日本でなかなか普及しない「かかりつけ医」

ただ、日本医師会と四病院団体協議会が定義した「かかりつけ医」と総合診療専門医は、同一のものではないことは明らかだ。別の言い方をすれば、総合診療専門医となった医師だけがかかりつけ医機能を担えるようにするわけではないという意図が浮かび上がる。

わが国では、かかりつけ医制度の整備に向けた取り組みはあるが、何をもってかかりつけ医とするかについての統一見解が確立できていない。多くの先進国で定着しているプライマリ・ケア(患者の抱える問題の大部分に対処でき、かつ継続的なパートナーシップを築き、家族および地域という枠組みの中で責任を持って診療する臨床医によって提供される、総合性と受診のしやすさを特徴とするヘルスケアサービス)をかかりつけ医が担うのかどうかについても、方針が定まっていない。

そこには、外来患者がかかりつけ医として腕のいい医師を頼りにして、多くの患者を抱えるかかりつけ医とそうでない医師の差が生じるのを恐れる医師側の思惑も見え隠れする。そうした事情もあって、かかりつけ医制度がなかなかわが国で定着しない。

かかりつけ医の普及に向けて、かかりつけ医以外の医師を受診したときに定額負担を求める案も政府部内にはある。しかし、2019年12月に取りまとめられた全世代型社会保障検討会議の中間報告では却下された。この仕組みは、やみくもにかかりつけ医以外にかかれば定額負担という形で患者の負担増にはなるが、かかりつけ医にかかる限り定額負担はなく、まずはかかりつけ医に診てもらおうという動機づけになる。

受診時定額負担がなくとも、かかりつけ医制度が定着するかもしれないが、今回の感染でかかりつけ医制度がまだわが国で定着していないことがあぶり出されたことだけは間違いない。

今回の新型肺炎を機に、最新の医療情報を熟知し、院内感染防止にも配慮できるかかりつけ医制度が定着すれば、災い転じて福となすことになるだろう。

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