姉の受験が終わるとごく自然な流れでひろみさんの番になった。「母によれば、私が中学受験をしたいと言ったから始めたのだと言われるのですが、私にはまったくそんな記憶はないんです。ただ、もし言ったとすれば、母が喜んでくれるだろうと思ったからではないかと」と言いながら、頼んだアイスティーに目を落とした。
引っ越し先は当時まだ、中学受験をする子どものほうが珍しいというエリアだった。中学受験のために入塾したのは自宅近くのバス停から、バスで数分のところにある、駅前の日能研だった。4年生の2月に入塾。はじめはいちばん下のクラスからスタートした。
日能研は組分けも席順も成績で決まる。毎週行われるテストの結果次第で、クラスと席が決まる仕組みだ。席順の発表は決まって週明け。「週明けはすごく緊張していました。お友達にもだいたいの成績がわかってしまいますしね」。
周りの雰囲気に押されるのか、親に言われて入ったという感覚でいたひろみさんも、いつのまにか「いい成績を出したい」という思いを抱くようになったという。しかし、もともと、算数の基本的な問題でつまずくほど勉強はそれほど得意ではなく、コツコツと積み重ねていけるタイプでもなかったというひろみさん。中学受験は知らず知らずのうちにプレッシャーとなっていた。
「なまけ」と思われた病気
そんなひろみさんも6年生になるとクラスは全体の真ん中をキープし、成績は安定し始めていた。だが、夏休みに入った途端に、ある異変が起き始めた。朝、どうしても起きられない。そして、無理に起き上がるとひどい吐き気に襲われるようになったのだ。
症状が起こるのは決まって午前中だけ。幸い塾の夏季講習は午後からだったため、塾を休むことはなかったのだが、はじめは心配してくれていた母親の利美さん(仮名)もこの状態が数日続くと態度が冷たくなりだした。
「〇〇ちゃんなんて、午前中にしっかり勉強してどんどん成績を上げているのよ。なのに、あなたはダララダと寝てばっかり、もっと頑張りなさい!」などと叱責される日々が続いた。
午後には何事もなかったかのように元気に塾に通うのだから、母親が疑問を抱くのも無理はなかった。だが、容態は改善されず、いつまでたっても午前中だけ調子が悪い。立ち上がれないほどのめまいに吐き気。だが、熱はなく、午後には元気になるのだ。いつしか母親の叱責も強くなり、「そんなに調子が悪いのならば病院できちんと診てもらいましょう!」と、病院を受診することにした。
「母親は多分、私の病気がつらそうだからというよりも、仮病に決まっているのだから、白黒つけてもらいましょうという気持ちだったと思います」
だが、意外にも仮病でないことがわかった。自律神経の乱れにより起こった「自律神経失調症」ではないかと言われたのだ。「体の成長に心がついていけず、体の不調として症状が表れることがあり、メンタル的な問題だと医者は話していました」。
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