「中学受験のトラウマ」を20年抱えた女性の告白 中学入学後もずっと続いた"苦悩"

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だが、楽しい生活であればあるほど、小学校4年生からの苦労がなんだったのか、中学時代の苦い思いはなんだったのかと、過去についての後悔が心を重くしていった。

「あれは、私にとって空白の5年間だったと感じていました。中学受験なんかしないほうが幸せだったのではないかと思えて仕方がなかったんです」

その後にひろみさんが進んだ先は、都内の中堅大学だ。いい大学に入ることが幸せの第一条件だと考える人にとっては負けた人間に映るかもしれない。ひろみさん本人も、あのまま私立に通っていたら、もっと偏差値の高い大学に入れていたと思う、と話す。

吹っ切れたのは30歳を過ぎてから

だが、転校したことに後悔はない。一方で、自分に自信が持てないという気持ちは大人になっても引きずっていたという。そんなひろみさんが自信を持てるようになったのは、30歳を過ぎてから。

「ワーキングホリデーを利用して留学したのがきっかけです。学生時代から留学は夢でしたけれど、やはり、自信がなくて一歩が踏み出せなかった。ワーホリは30歳までしか行けません。今しかないんだと思い飛び込みました」

渡航先は韓国。英語圏は今後も住む可能性はあるだろうが、韓国は、こんな機会でもなければ暮らさないだろうというのが選んだ理由だ。「はじめて親元を離れて一人暮らしをし、自分から行動を起こして留学中はいろいろな所に足を運びました」。

聞きながら、彼女から能動的に動いた経験を聞くのはこれがはじめてだと気がついた。その場から逃げたい一心で行動を起こした高校受験はいわば後ろ向きな気持ちからの選択という面もあったが、今回の留学はすべてが前向きなものだった。親のイメージするとおりの人生を歩まなければならないという、無意識に植え付けてしまったプレッシャーとの決別が、30歳でようやくできたのかもしれない。

最後に、今、受験を終える親御さんに伝えたいことはありますかと訊ねると、その大きな瞳に涙が浮かんだ。

「親には話したことはないですが、中学受験で親のことを怨むような感情が自分の中には宿りました。私がもらえなかった“頑張ったね”の一言を、どうぞ伝えてあげてください。どんな結果であったとしても、その一言で、子どもは安心できると思います」

本連載「中学受験のリアル」では、中学受験の体験について、お話いただける方を募集しております。取材に伺い、詳しくお聞きします。こちらのフォームよりご記入ください。
宮本 さおり フリーランス記者

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みやもと さおり / Saori Miyamoto

地方紙記者を経てフリーランス記者に。2児の母として「教育」や「女性の働き方」をテーマに取材・執筆活動を行っている。2019年、親子のための中等教育研究所を設立。

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