「中学受験のトラウマ」を20年抱えた女性の告白

中学入学後もずっと続いた"苦悩"

ひろみさんの症状を聞き、ある病名が思い浮かんだ。起立性調節障害。医療関係者の間で通称ODと呼ばれる病気だ。実はこうした症状に悩まされる子どもは多いのだが、最近まであまり解明されてこず、心理的なものとして捉えられてきた傾向がある。すでに症状もないひろみさんがその病気だったと断定することはできないが、話を聞く限り、症状は酷似していた。

専門書によれば、現在、OD発症の頻度は高く、一般中学生の約1割、小児科を受診する中学生の2割がこの疾患を患っているというのだ。心身症としての側面が強い疾患だが、身体機能異常が中心となる病態であり、身体的治療によってかなり改善するため、心身症としての気管支喘息に似ているとされている。

つまり、心の病気ではなく体の病気として捉える必要があるというのだ。医療関係者向けに定められたガイドラインによると、家族への説明として「根性」だけでは治らないことを強調するようになっている。

このODの診断方法、診断基準が確立したのはほんの数年前のこと。ひろみさんに症状が表れていた当時はまだ、メンタルの問題で片付けられていた可能性が高い。しばしば「なまけ病」などとも呼ばれていた。

事実、メンタル的なことだと聞いた母親はますますあたりを強くしていった。「メンタルなんだから、気持ちの問題じゃない! もっとシャキっとしなさい!」「高い月謝を払っているのにどうして怠けているの? あなたが寝ている間にほかの子は勉強しているのよ」。夏休みの間中、言われ続ける苦しい日々。親に逆らったことなどなかったひろみさんは何も言うことができず、ただただ耐えるしかなかった。

「いつもは口癖のように他人は他人、わが家はわが家だと豪語しているくせに、私だって起き上がれるものなら起き上がって勉強したい。1番の理解者であるはずの親に理解されないなんてと、不信感だけが残りました」

2学期になって学校が始まると、体調は次第に回復。だが、次に不調の波がやってきたのはなんと受験のときだった。

自分から何かをしたいと言い出したことはほぼ一度もないまま、高学年まできたひろみさん。中学受験についてもこれといった意見はなく、母親が持ってきたパンフレットを見て、言われるがままに志望校を決めていた。

「母親は教育熱心だったと思います。いつも受験雑誌がリビングに置いてありました。パンフレットなどを取り寄せて、情報を集めてくるのも母親でした。父親は受験について一度も口を出したことはなくて、すべて母親がしていました」

まさかの結末が…

結局、母の気に入った学校3校を受験。このうち1校は2回受験するチャンスがあったため、どこかには受かると思い、申し込んだ。成績的にも無理な学校ではなかったので、塾からもほかの学校の受験は勧められなかった。

だが、受験当日、あの悪夢の体調がひろみさんを襲った。受験会場に向かう電車ですでに症状は悪化。乗り換えの駅で休憩を取りながら、なんとか会場にたどり着いた。だが、この体調では、試験どころではない。

次ページ“大丈夫?”と母が声をかけてくれたけれど…
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