米独の諜報機関が世界各国公電を盗聴した手法

5Gのインフラ構築をめぐる議論にも影響か

ルビコン作戦が「悪質」な点は、アメリカとドイツの諜報機関が、中立国スイスの企業に対する各国政府の信頼を利用したことだ。各国政府は、まさか世界最大の暗号化装置メーカーがアメリカとドイツの諜報機関の所有だとは、夢にも思わなかったはずだ。

ルビコン作戦をめぐる報道は、現在欧州で行われている5Gに関する議論にも影響を与えるだろう。メルケル政権は、米国とは異なり、5Gに関するインフラの構築から中国のファウェイを締め出すことに否定的だ。

しかしファウェイをインフラ構築に参加させた場合、政府や企業の機密情報が中国に流れる危険があるという指摘もある。たとえば去年10月にBNDのブルーノ・カール長官は、議会での証言で「特に安全保障などに関する重要な領域については、ファウェイを5Gのインフラの構築に参加させるべきではない。同社を100%信頼することはできない」と警告している。

BNDは自ら20年間にわたり通信関連ハードウエアの「抜け穴」を使った諜報活動を行った。その経験があるだけに、BNDの警告には説得力がある。これに対しファウェイ側は、中国政府に情報が漏洩する可能性を全面的に否定している。

しかしアメリカや中国のIT企業も自国政府の命令には従わなくてはならない。彼らは、法律によって安全保障上必要と判断された場合には、サーバーに保管している情報などを政府に閲覧させることを義務づけられている。IT企業が個人情報の保護を盾に、政府の命令を拒否できるとは考えにくい。政府や企業がアメリカなどのIT技術に大幅に依存している今日、NSAやGCHQなどの諜報機関はルビコン作戦を上回る規模で機密情報を入手することが可能になっている。

ITインフラで米中に依存するのは不安

ドイツ政府は去年10月に、アメリカと中国のクラウドに依存しない欧州独自のクラウドシステム「ガイアX」をフランス政府と共同で構築する方針を発表した。この背景には、世界のクラウド市場の80%近くをアマゾンやマイクロソフトなどのアメリカ企業とアリババなどの中国企業が支配する中、ドイツ企業の間で情報保護についての不安が強まっているという事実がある。ドイツ企業はITインフラについて米中企業への依存を減らそうと努力しているが、ルビコン作戦についての報道は、その動きに拍車をかけるだろう。

筆者は、社会主義時代の東ドイツのスパイ機関「偵察本部(HVA)」のマルクス・ヴォルフ元長官にインタビューしたことがある。彼は「諜報機関は修道院ではない。したがって手荒いこともやる」と語った。彼が言いたかったのは、「諜報活動は外国での法律違反も含めてタブーがない世界だ」ということである。ルビコン作戦は、今日でも重要な情報の管理について外国の政府や企業を100%信頼することは危険であること、企業にとって機密情報を守れるのは自分でしかないことを教えている。 

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