米独の諜報機関が世界各国公電を盗聴した手法 5Gのインフラ構築をめぐる議論にも影響か

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CIAとBNDは、このグローバルな盗聴活動に「ルビコン作戦」というコードネームをつけていた。

ルビコンはアドリア海に通じるイタリアの川の名前。共和制ローマの末期にイタリア本土と属州ガリア・キサルピナの境界だった。ユリウス・カエサルは紀元前49年1月7日に自分の軍勢とともにこの川を越え「賽は投げられた」と言って、事実上ローマ元老院に対する内戦を開始した。

このため「ルビコンを越える」という言葉は、後戻りができない重要な決定を意味する。世界各国の暗号電を読めるようになれば、諜報活動は飛躍的に進歩する。つまり1970年代の諜報機関員たちは、この作戦が持つ革命的な意味を理解しており、ルビコンというコードネームを選んだのだ。

アナログ時代に今の諜報活動を先取り

クリプト社の前身は、1915年にスウェーデンの暗号学者がストックホルムに興した小企業のABクリプトグラフだった。この会社が経営難に陥ったために、1921年にスウェーデンの企業家ボリス・ハーゲリンが会社を引き継いだ。

ハーゲリンが製造した暗号化装置は、スウェーデン軍だけでなく、アメリカやイタリアでも使用された。この頃からハーゲリンはすでにアメリカで諜報機関や軍の関係者と交流を持っていた。だが第2次世界大戦後にスウェーデン政府が暗号化装置を武器の一種と見なして輸出を禁止したため、ハーゲリンはスイスに移住し、1952年にツーク州のシュタインハウゼンにクリプト社を創設した。

BNDとCIAは1970年にクリプト社をハーゲリンから約1700万ドルで買収し、株式を50%ずつ所有した。この会社が諜報機関に所有されていることを隠すために、企業買収はリヒテンシュタインの信託機関を通じて行われた。ZDFによるとドイツの大手電機メーカー・ジーメンス社も、クリプト社に対する技術支援を行っていた。ジーメンス社はこの件についてのコメントを拒否している。

BNDは1970年から23年間にわたりこの作戦に参加した。しかし1990年のドイツ統一後、欧州の友好国に対する盗聴作戦の発覚を恐れて、1993年にクリプト社の株式をCIAにすべて売却した。

21世紀にはアメリカでは国家安全保障局(NSA)による電子諜報活動が主流になったため、CIAも同社から手を引き、クリプト社は2018年に廃業した。ちなみに、クリプト社と同じ住所にあるクリプト・インターナショナル社は「わが社は旧クリプト社とは無関係であり、過去に同社が行っていたことについては関知しない」と説明している。

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