米独の諜報機関が世界各国公電を盗聴した手法 5Gのインフラ構築をめぐる議論にも影響か

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CX-52が過去20年間に、西側諸国に重要度の高い情報をもたらしたことは事実である。たとえば1986年8月に西ベルリンのディスコ「ラ・ベル」で爆弾テロが起き、米兵ら3人が死亡し約280人が重軽傷を負った。アメリカのロナルド・レーガン大統領(当時)は翌日に「リビア政府の仕業だ」と断定し、同国に対する報復攻撃を行った。

BNDは、西ベルリンのリビア大使館がCX-52を使って本国の外務省に送った暗号電を傍受して、米国に通報したのだ。レーガンは記者会見の際に、「われわれは通信を傍受した結果、リビア政府が犯人だという確実な証拠を握っている」と口を滑らせてしまい、アメリカやドイツの諜報関係者の眉をひそめさせた。

また1989年12月に米軍はパナマに侵攻して独裁者ノリエガを逮捕したが、ZDFは、「CIAはCX-52を使った暗号電を傍受することによって、ノリエガがパナマのバチカン大使館に隠れていたことを知った」と報じている。さらに1982年に英国とアルゼンチンとの間でフォークランド戦争が勃発した際にも、CIAはアルゼンチン軍の暗号通信を傍受して英国に通報し、サッチャー政権の勝利を助けた。

イラン政府もクリプト社のCX-52を使っていた。1979年にテヘランの米国大使館がイランの学生たちによって占拠され、大使館職員52人が人質になった時には、CIAがイラン政府の暗号電を傍受して、イランの革命防衛隊の動静を探ろうとした。

人権蹂躙を不問に付したドイツ政府

だが「ドイツ政府はルビコン作戦によって重要な情報を入手しながら、行動を起こさなかった」という指摘もある。

1970年代にアルゼンチンの軍事政権は、反体制派の市民ら約3万人を殺害したり拷問したりした。アルゼンチン政府もCX-52を購入した国の1つだった。ZDFは今回入手した文書の分析に基づいて、「当時、西ドイツ政府はBNDの暗号電傍受から、アルゼンチンの軍事政権が多数の市民を殺害していたことを知っていたが、抗議しなかった。西ドイツ政府は人権抑圧を熟知しながら、1978年にアルゼンチンで行われたサッカーのワールドカップ選手権をボイコットせずに、選手団を派遣した」と指摘している。

CIAとBNDが得ていたのは機密情報だけではない。2つの諜報機関は過去20年間にクリプト社の経営から巨額の収益を得ていた。ZDFが入手した文書には、「毎年の収益はBNDの予算に加えられた。連邦議会の予算委員会と会計検査院は、この収益を検査することはできない」と記されている。

ドイツ連邦議会で諜報機関の監査を担当する「議会コントロール委員会」のコンスタンティン・フォン・ノッツ議員(緑の党)は、「当時政府は、どの程度までBNDがルビコン作戦でつかんだ情報を把握していたのか。また本当にBNDが、政府に報告せずに、クリプト社の収益の一部を闇の資金口座に隠していたのか。こうした点を解明するために、われわれは連邦政府に対して情報の開示を求める」と語っている。

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