永谷園生姜部が高めるブランド価値《それゆけ!カナモリさん》

 

■生姜が変える永谷園のチャネル

<チャネル(Place)露出効果の増大>

 従来の永谷園商品は、スーパーの棚、コンビニの棚の一部に収まっているにすぎなかった。しかし、「冷え知らずさんの生姜シリーズ」は展開スペースを大きく拡大することに成功している。ナチュラルローソンでは、他社の生姜製品も含めてではあるが、過半を同シリーズが占めた「冬に向けた生姜特設コーナー」を展開した。

JR東日本管内のエキナカで1万台の自販機を展開するJR東日本ウォータービジネスは、冬に向けたホット飲料強化の方針とマッチする「冷え知らずさんの生姜シリーズ・生姜チャイ」を自販機に導入した。また、今月17日発売の新製品は、食品流通各社の菓子棚に導入されることだろう。

従来の永谷園ではあり得なかったチャネルを開拓、さらにその中でも、飲料やスープという棚をがっちり確保している。それによる売上げ増大だけでなく、「永谷園ってこんな製品も出しているんだ」という消費者の認知を獲得する効果も発揮できる。

<売上げ・利益拡大効果>

 従来の永谷園製品は「お茶づけ海苔」=「お茶漬けを食べる時」、「チャーハンのもと」=「チャーハンを食べる時」しか用いられないのが基本だ。そのことからすると、購買頻度(Frequency)はあまり期待できない。それゆえ、様々な商品アレンジを展開し、一人の顧客にクロスセル(併売)して購買総額の向上を図ってきた。

しかし、「冷え知らずさん」シリーズは単体の製品、例えば飲料や菓子であれば、お気に入りの商品の購買頻度は高くなる。また、シリーズ製品の併買率も高くなることが期待できる。従来にない、「顧客生涯価値」の向上が期待できるのだ。

<ポジション(Positioning)・ターゲット(Targeting)拡大効果>

 ここまで、生姜部の活動、および「冷え知らずさんシリーズ」の効果として、マーケティングの4Pの要素を順不同で見てきたが、四つのPが整合し、かつ相乗効果を発揮している「マーケティングミックス」が実現できていることがわかる。

マーケティングの鉄則は、4Pの前に、それがターゲットに受け入れられるのかという、「ターゲティング」がしっかりしていることが求められる。従来製品が、手間無く料理を作りたい主婦層や、ササッとご飯を食べてしまいたい単身層を中心ターゲットにしていたのに対し、「冷え知らず」というポジショニングを構築して、若い女性やOLをはじめ、全女性にターゲットを拡大することができた。

さらに、派生商品である生姜ジュース「つよいぞ!ジンジャーくん」で子供を取り込み、菓子製品は男性にも拡大できる可能性を秘めている。

<環境(3C:Customer・Competitor・Company)はどうなのか?>

 永谷園という企業自身(Company)にとっては、戦略的に重要な事業であり、上記の通り効果を上げているといえる。では、それを取り巻く環境はどうなのか。ここまで述べたように、顧客(Customer)からは受け入れられている。では、競合(Company)はどうか。

正直なところ、競合となる明確な存在は見あたらない。それは、「冷え知らずさんシリーズ」という製品を生み出すまでに積重ねた、同社の苦労が並大抵ではなく、そこに追いつくまでにはまだまだ時間がかかることを意味している。

FMA(First Mover's Advantage=先行者優位)を発揮するのはこれからで、ますますの活動とその成果が期待できる「生姜部」なのである。

生姜部が今後、永谷園の「生姜ブランド」を確たるものにすることは間違いない。さらにそれは、永谷園本体のブランド価値も確実に高めるだろう。

《プロフィール》
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。
「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
◆この記事は、「GLOBIS.JP」に2009年11月13日に掲載された記事を、東洋経済オンラインの読者向けに再構成したものです。

 

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