子供の競技人口減にダブルスポーツという秘策 スポーツの仲間でつながらないと未来はない

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しかし「ダブルスポーツを」という声が、日本の学校部活の現場から上がることは現時点では考えられない。

日本の学校スポーツでは、選手は指導者と師弟関係を結ぶ。強いチームであれば、師弟は強烈な上下関係になる。そんな選手が他のスポーツに「浮気する」ことなど考えられない。

そして強いスポーツ部では、選手は1年のほとんどを練習や試合で拘束される。中には寮に入って24時間、指導者の管理下に置かれる場合もある。「ダブルスポーツ」などとんでもない、というところだろう。

また「ダブルスポーツ」になれば、道具や移動の費用などもかかる。けがのリスクも高まる。「いいことなど1つもない」というところではないか。筆者はかなり進歩的な野球指導者に「ダブルスポーツ」について尋ねたことがあるが、その指導者でも「うーん、難しいだろ」とまったく気乗り薄だった。

強固な師弟関係を引きはがすメリット

しかし「ダブルスポーツ」には、さまざまなメリットがある。

1つは選手が強烈な「師弟関係」から解放されるということ。選手1人に2人の“師匠”がいることになれば、選手と指導者の関係は相対的になるはずだ。絶対的な上下関係は生まれ難いはずだ。1つの競技に割く時間も限られる。

そういう境遇になれば選手は2人の指導者の言葉を「取捨選択」するだろう。それは自分でものを考える習慣をつけることにつながる。体育会系の部員は、何を言われても「はい」としか言わないといわれるが、そうした習慣は薄まるのではないか。

また2つの競技をすれば、体の違う部分を動かすことになる。異なる技術も習得する。それがもう一方のスポーツで思わぬ役割をすることもあろう。さらに、体のケアについても新しい知識を得ることが可能なはずだ。費用の問題は、道具をシェアしたり、レンタルしたりすることである程度解決できるのではないか。

当然、アスリートとしての視野も広がるだろう。

現千葉ロッテマリーンズ投手コーチの吉井理人氏は、引退後、各球団でのコーチ経験を経て筑波大学大学院でコーチングを学んだ。吉井氏は「野球以外のスポーツで活躍した筑波の教員からいろいろなことを学べたことが大きかった。視野が広がった」と語っている。

選手、投手コーチとして日米で多くの実績を積んできたベテランの指導者でも、他分野のスポーツの知識に触れることは新鮮で刺激的だったのだ。もちろん、そのためには「俺は何でも知っている」という態度ではなく、謙虚な「学ぶ姿勢」が必要だ。

現場からは「選手が混乱する」という反論が上がるだろうが、部活以外の学校教育では、科目が違えば教師が変わるのは当たり前のことだ。むしろ、べったりとくっつきすぎる「師弟関係」を引きはがすことは、メリットが大きいと思う。

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