日本人はSNS加害者になる危険を知らなすぎる 「よかれと思って」が引き起こす大変な事態

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この件についての投稿をしたり、リツイートしたりした人は、最初は悪者を懲らしめるつもりだったのでしょう。しかし、その情報が真実かどうかもわからないのに、拡散するということは、他人の人生を狂わせることにもなりますし、拡散者が罪に問われるケースもあるのです。

デマに加担してしまう人の共通点

では、なぜ人はデマの拡散に加担してしまうのでしょうか。それを考えるとき、1つ参考になる事例があります。

2016年4月に発生した熊本地震の直後に、街中を歩くライオンの写真とともに次のようなデマがTwitterに投稿されました。

「おいふざけんな、地震のせいで
うちの近くの動物園からライオン放たれたんだが
熊本」

このツイートは実に2万人以上にリツイートされ、大騒ぎになりました。その結果、熊本市の動物園には問い合わせが殺到。デマが業務を妨害したとして、神奈川県に住む当時20歳の会社員の男が逮捕されました(不起訴処分)。

地震直後の熊本の人たちの心情を思えば、悪質なデマを流した男の逮捕は当然だったと思いますが、一方であのツイートは当初、「出来の悪いネタ」として一部のネット民の間では嘲笑されていたのです。

彼らはまず、写真に写る信号機や路上にひかれたラインなどを見て、
「これ、ほんとに日本?」と疑い、さらに、

「熊本市内をライオンが歩いていたら、もっと目撃情報があるはずでは?」「なぜこの写真しかあがってこないの?」「本当に逃げたなら、動物園や警察・行政から何も発表がないのはおかしい」等々、不自然なことが多すぎると直観的に疑い、「これ、フェイクだろ!」と最初から確信していたわけです。

実際、この写真はのちに、南アフリカのヨハネスブルクで映画のために撮られたもので、ライオンの名前がコロンブスということまで明らかになりました。

ところが、地震直後で熊本関連の情報が拡散されやすい状況であったことから、ネタのつもりだったツイートが拡散力を獲得し、SNSのリテラシーに通じていない人たちのところまで到達。

「大変だ、みんなに知らせなきゃ!」と使命感にかられた人たちによって、一気に拡散されてしまいました。

そこから見えてくるのは、次の2つの点です。

① ネットのウソを見抜くリテラシーの欠如
② 過剰な使命感や正義感の発動

先の常磐道あおり運転事件も同様で、根拠のない情報を鵜呑みにした人たちが、「あの女、許せない」という過剰な正義感を発動させて、デマの拡散に加担した結果、別人の女性への攻撃につながってしまったわけです。

次ページネットでは正義感が暴走しやすい
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