日本人の「和牛離れ」も招く大輸出時代の幕開け アメリカと中国への輸出拡大で起きること

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近年、和牛の海外での人気を背景として、世間の注目を集めた事件がある。2018年に発生した中国への和牛の精液流出未遂事件だ。大阪府の男性2人が徳島県の畜産農家から買った和牛の受精卵と精液を中国に持ち出そうとしたところ、中国の税関に止められ、その後に大阪府警に逮捕された。

男性のうちの1人は過去に複数回中国に持ち出したと警察の調べに対して語っており、和牛人気から中国現地で和牛を育て販売したい勢力が歴然として存在することがうかがえる。また、精液と受精卵を男性に売った徳島県の畜産農家は70歳と高齢で、生活が苦しかったと動機を語っている。畜産業界の後継者不足と高齢化はこの種の犯罪の原因になると見たほうがいいだろう。

この事件を受けて、世論の反応や自民党の農林族、畜産団体の要請もあり、今国会で刑罰を伴う法案が提出され、今年中にも成立する見込みだ。

本当に怖いのは和牛の生体の表玄関が開くこと

「違法な遺伝資源の持ち出し」については厳罰化に向けて道筋が立ったわけだが、畜産業界関係者が本当に恐れているのは中国など外国政府が和牛の生体輸出を求めてくることだ。

現状は2010年に日本で口蹄疫が発生したことにより、中国やアメリカなどと輸出に必要な検疫条件についての交渉がキッチリ行われておらず、宙ぶらりんの状態になっている。

ただ、世界貿易機関(WTO)は自由貿易を掲げており、もし相手国から交渉を持ちかけられれば、科学的議論の末、正式に輸出しなければならなくなるのは時間の問題。そもそも、日本で飼育されている豚肉や鶏肉は外来種がメインで、なぜ和牛の生体輸出がだめなのかということを説得力を持って主張することは不可能だ。

今、政府や畜産業界団体にできるのは、瀬戸際でできるだけ時間を稼ぎ、その間に輸出拡大や幅広いニーズに対応できる品種改良を進めることだけとなっている。

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