日本人の「和牛離れ」も招く大輸出時代の幕開け アメリカと中国への輸出拡大で起きること
和牛の遺伝資源流出未遂事件をめぐっては、新聞などの国内メディアは「国の宝が中国に盗まれる」というようなナショナリスティックな報道を繰り返した。確かに和牛は日本の畜産業界が生み出した大きな成果だ。
しかし、2000年に日本国内への牛肉の輸入が解禁され、アメリカやオーストラリアといった外国産牛肉との差別化を図って「サシ」が強みとして意識される前までは、そもそも一部地域を除いて現在のような和牛は存在しなかった。そういう意味では和牛の「国の宝」としての歴史はそれほど長いとはいえない。
それに、高価な和牛を1年に数回も食べる日本人は圧倒的に少数派だ。「国の宝」といって守りたいなら積極的に食べるべきだが、そうせず、外国人富裕層が買うといえば、排他的になることは正しいのだろうか。資本主義の前提に立つなら、より高く買ってくれる顧客に販売するのは当然だ。その結果、海外の富裕層ばかりが和牛を食べるようになったとしても仕方ないだろう。
日本の畜産業界に必要なこと
生体や精液など遺伝資源にしても、前述の「正規ルート」が開くのはしばらく先になるとしても、悪人が本気を出せば日本国外に持ち出すことを完全に防ぐことは不可能だ。すでに流出しているともいわれており、それを前提として育て方で勝負するほうが建設的といえる。実際、日本の畜産農家のまじめさがなければ「和牛」としてのクオリティーは担保しにくい。
今後畜産業界は、
①国内外の富裕層向けの和牛を飼育し続ける
②「サシ至上主義」を改めて国内向けに手ごろな価格帯も飼育する
の2つの方向性の中で勝負していかざるをえないだろう。これまで①に偏りすぎていただけにいきなり修正するのは難しいが、脂肪の「量」でなく「甘さ」で勝負する流れも出てきている。
アメリカ・中国への輸出拡大で世界へはばたくことになる和牛。日本国内が「和牛不足」になる日が来るのかもしれない。
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