出前館トップが語る「フードデリバリー」の未来 目標は5万店、4~5年後に1000万人を獲得する

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ーーデリバリーサービスを展開するアメリカ「ポストメイト」(Postmates)のバスティアン・レイマンCEOは、CNBCの取材に対して「サービス同士のすみわけができるので、フードデリバリーは勝者独り占めのビジネスではない。複数のデリバリーサービスによる共存共栄は可能だ」と発言しています。

私はそうは思わない。注文を受ける端末を置ける店内スペースは限られている。メニュー対応しなければならないことも考えると、注文数の少ないデリバリーサービスを飲食店側が利用するメリットはない。生き残れるサービスはせいぜい2つだろう。

全国で直営の配送拠点を増やし続けているのも、早いうちに多くのユーザーを確保するためだ。フードデリバリー市場が完成すれば、デリバリーサービスも自然と黒字化できる。今は痛みに耐えて先行投資する時期だ。

4~5年以内に定期的に利用されるようになる

ーー「市場が完成する」というのは?

出前館のアクティブユーザー(直近1年間で1回以上オーダーしたユーザー)は314万人(2019年12月末時点)と、日本の総人口の3%に満たない。ところが、韓国の「ウーワ・ブラザース」(Woowa Brothers)やイギリスの「ジャスト・イート」(JUST EAT)を見ると、アクティブユーザー数はそれぞれの国の人口の2割弱だ。この水準にまで到達すれば、市場が完成したといえる。

中村利江(なかむら・りえ)/1964年生まれ。1988年リクルート入社。ハークスレイを経て、2001年にキトプランニングを設立。2002年に夢の街創造委員会(現・出前館)の社長に就任(撮影:今井康一)

日本でもおそらく4~5年以内には、それだけの人々がフードデリバリーを定期的に使うようになるはずだ。配送量が増えれば配送効率も上がるので、コストが下がる。配送代行事業の利幅が狭いということはなく、1000万人程度アクティブユーザーを確保できれば十分な利益は出せる。

ーーただ、2020年8月期は15億円の営業赤字を見込んでいます。現状のアクティブユーザー数は、2019年8月期に達成するとした目標数(441万人)を大きく下回っています。

アクティブユーザーになってもらうには、まずはフードデリバリーの利便性を実感してもらわなければならない。初回の利用は、クーポンによる割引などで増やせる。問題となるのは、いかにリピーターになってもらうかだ。容器製造の「エフピコ」とともに、汁漏れ防止や保温可能な麺類用の容器を開発したのも、顧客満足度を高めることで何度も出前館で注文してほしいからだ。

最適価格も見極めなければならない。例えば、吉野屋とは価格を下げる実験を進めている。当初は牛丼(並盛)を570円で届けていたが、店頭価格(380円)と比べて割高だったため、利用するユーザー数は限られていた。どの価格ならば飲食店にとって無理なく、かつユーザーにとって利用しやすいのか、飲食店から(出前館が)受け取る配送手数料(注文金額の一定割合)を引き下げながら調べている。

われわれは飲食店からのサイト利用料で収益を上げられればよく、配送拠点1つひとつで必ずしも黒字化する必要はない。配送手数料を引き上げれば、10カ月ほどで配送拠点は黒字化できる。そうしないのは、ユーザー数と注文数を増やすことに注力しているからだ。価格が高くなって誰も利用しないのでは意味がない。先行投資としてかかったコストは、フードデリバリー市場の拡大とともに回収できるので問題ない。

(新聞配送のネットワークをデリバリーサービスで活用する狙いがあった)朝日新聞社との業務提携を解消したのも、臨機応変に配送手数料を変えるためだ。手数料率(注文金額に対する比率)が3割を超えていては、一般ユーザーがなかなか利用できない。

次ページ配送量を平準化し、配送コストを引き下げ
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