台湾の「38歳」デジタル大臣から見た日本の弱点 「まだ多くを学ぶ必要があるが遅れている点も」
現在の代議制民主主義は、私にとってはより原始的なシステムに見えます。たとえばラジオやテレビが普及した時代、1人の政治家が数百万の国民に話しかけることができるようになりましたが、あくまでも一方通行。1人の政治家がその数百万の国民の声を聴くことはできず、国民同士がお互いの話を聞くこともまれでした。
ところが、ネットというプラットフォームを使えば、人ではなく、その主張や問題といった物事を中心に据えて言葉を交わせます。すなわち、それぞれの主義主張や政治志向を離れ、1つのテーマや問題について誰もが話し合えるということです。同じ価値観を持ち、目指す方向への共通認識があれば、話し合うことで社会は前進できます。ネットによって間接民主主義の弱点を克服できるのです。
証拠に基づいた政策立案が可能に
――訪日経験が豊富です。現在の日本をどう見ていますか。
私がまず日本に関心を寄せているのは、地方創生・再生のやり方です。例えば日本の「RESAS」(地域経済分析システム)には、大いに啓発されました。これによって一時的な現象や特定層の意見のみにとらわれず、産業や教育、人口密度といった細かなデータに基づいて地方創生を議論できます。証拠に基づいた政策立案が可能になるわけです。
台湾には「TESAS」というシステムがありますが、正直にいえば、農業などの産業・経済分野とITとの連携面では、台湾は日本に及びません。日本からはまだ多くのことを学ぶ必要があります。
ただ、デジタル社会への移行という点では、台湾のほうが日本より柔軟です。例えば印鑑。台湾では電子署名法により、印鑑と手書きの電子サインの両立が可能です。日本ではまだ印鑑がよく使われますね。印鑑といった1つの文化を伝承することはとても大事です。しかも、日本の民主主義の歴史は戦後からだけで見ても長い。台湾における民主化は1987年からにすぎず、ウェブブラウザーの開発・利用の歴史とほぼ同じです。
長年慣れ親しんできたことをすぐ変えるのは難しいのかもしれません。台湾では新技術を民主主義に応用する方法の開発・実験が盛んですが、日本ではこの点で動きが見えませんね。
――日本の情報通信技術政策担当相である竹本直一氏は79歳。台湾とは40歳以上の差があります。
年齢による比較は公平ではありません。またITを担当する大臣といっても、日本と台湾とで役割は同じではありません。台湾の科学技術部(省)の大臣や研究者の人たちは私の父と同世代で60、70歳代の高齢ですが、皆さん革新的な考え方を持っていますよ。
台湾では部長(大臣)が組織の縦の運営を行い、私のような政務委員(無任所大臣)は横、すなわち省庁間の連携などで動きます。どちらも欠かせない存在で、それぞれに役割があるのです。