台湾の「38歳」デジタル大臣から見た日本の弱点 「まだ多くを学ぶ必要があるが遅れている点も」

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――日本では2020年度から小学校でもプログラミング教育が導入されるなど、IT教育への関心が高まっています。

プログラミング教育は、問題を解決するための手段にすぎません。デジタルスキルとプログラミング教育はまったく別のものだということです。プログラミング教育に反対はしませんが、第2外国語の学習と同じで、学んだとしても結果的に使えなくては意味がありません。

私は、プログラミング教育よりも「素養」(教養)を涵養するような教育を重視すべきだと考えています。台湾ではこれまで「競争力」を重視するかのような教育が行われてきましたが、現在では「素養」を重視するように教育方針が変わりました。自発的で、ともに助け合い、共通の利益を求めるという3つの要素を重視する教育への転換です。日本の教育政策の方向性は正しいと思いますが、台湾ほどのエネルギーは発していないかもしれません。

台湾は中国とは大きな差をつけた

――2019年9月、中国のデジタル社会の発展と台湾のそれを比較しながら「台湾の民主化を誇りに思う」と発言しました。

台湾と中国は同じ漢字を使いますが、意味や使い方が違います。例えば「透明」。台湾では「政府が国民に対して透明であるかどうか」という意味ですが、中国では「国民が政府に対して透明かどうか」となります。

台湾のデジタル社会は中国と大きな差をつけたと指摘する

デジタルでもそうです。デジタル技術の運用は、必ずその背後に哲学や価値観があります。台湾社会は自由で、国民一人ひとりの決定能力は高く、ゆえに社会はより健全です。デジタル技術の運用が正しい方向を向いていれば、さらに健全な社会を創造できます。

それに対し、中国のデジタル社会は健全でしょうか。「和諧」(調和)のことを健全というのであれば確かにそうでしょう。中国はこの「和諧」という言葉を十数年使っていますが、台湾の健全という言葉とは大きな差があります。台湾と中国の間では、2つのプレートがぶつかって重なり合おうとするとき、地震のような揺れやきしみが絶えず生じます。これまでの経験で台湾国民はすでに心理的な耐震性を高めています。

――ITが普及・深化する一方で、「デジタルデバイド」の問題が残ります。例えばITに慣れない高齢者と若者、また都市と地方との格差は解消しますか。

ITの目標は、人間の自然な生活に近づいていくことです。逆にいえば、人間社会がデジタル技術に合わせる必要はありません。例えば高齢者の方がキーボードで入力できないというなら、タッチペンで書けるようにすればいい。VR(仮想現実)でいろんなことが体験できるようにすれば、学習曲線といったものはなくなります。

デジタル技術はもっと謙虚であるべきです。人間に寄り添い、多くの人間が技術の恩恵を受けられるようにすべきです。1位になれ、トップを目指せ、という技術競争を追求してそれについていけない人を生み出すのではなく、どのような技術がどれだけの人を取り込めるかを考えることが重要です。

ですから、高齢者はIT社会で何一つ変わる必要はありません。ITのほうこそ、人間に近くなるように調整されるべきなのですから。

インタビュー全文(台湾デジタル社会は健全、中国と大きな差をつけた)は週刊東洋経済プラスに掲載しています。

鄭 仲嵐 在台湾ジャーナリスト

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Cheng Chung-Lan

1985年生まれ、2013年英東洋アフリカ研究学院日本学修士。フリージャーナリストとしてBBCや聯合報など国内外のメディアに寄稿。

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福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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