グレタへの脚光「世界の終わり」煽る空気のワナ 不安・不満募る人を大量に生み出し食いものに

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わが子が何年も他人と話をせず、しかも食事に制限があり、数カ所の決まった場所で、限られたものしか食べられない。その状態が何年も続いたあと、すべてのごちゃごちゃが突然消失したとしたら、親はまるでおとぎ話か魔法のように思うだろう。その喜びはどれほど大きいことか。

これはグレタさんが「気候のための学校ストライキ」を開始した後に両親が抱いた率直な感想だ。学校ストライキが一躍世間の注目を集めるのをきっかけに、「躁転」(抑うつ状態から躁状態になること)したように元気になったからである。

ロイターのレポートによれば、「環境不安」「エコ不安症」を個人レベルで解消することは困難であり、専門家の助言として「行動に出ることが不安に対処する1つの方法」と紹介している。具体的には「人々に勇気を与える行動を起こすこと」だという(気候変動がメンタルヘルスに影響、欧米で広がる「環境不安」/ロイター/2019年10月24日)。だが、これはいわば“治療法”の類いの話に過ぎず、行動の正当性を担保してくれるわけではないことに注意が必要だ。

「大きな危機」を前に「小さな危機」は脇に

トゥーンベリ家の場合は、長女(グレタさん)が発した「地球温暖化の危機」に両親らが引っ張られ、一家に浸透していく構図になっている。いい見方をすれば、「大きな危機」を前に家族同士のいざこざなどの「小さな危機」が脇に押しやられ、物事の関心が大局的な舞台へと移ることで家族の絆が取り戻される。

ハリウッドのパニック映画にありがちな巨大災害や破滅的事象を前に、バラバラだった家族がすぐに和解し、同じ目的に向かって団結する物語が典型だ。これは悪い見方をすれば、「内部の問題」を「外部の問題」にすり替えることで、「棚上げ」または「先送り」することであり、家族を保全するためには「大きな危機」が存在し続けるほうが好都合ともいえる。

トゥーンベリ家の人々は、絶妙なバランス感覚によって、「終末論」に耽溺(たんでき)することなく、あくまで現状を軌道修正させるために「世界の終わり」を強調する立場だ。しかし、「環境不安」「エコ不安症」にとらわれた人々の多くは、ピンカーの言う「環境悲観論者」となってしまっている。「暗黒の未来」を思い描いては「人類滅亡の恐怖」におののいている。

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