『研修医ニーナの731日』を書いた石原新菜氏(新米医師)に聞く
2004年4月から始まった新臨床研修医制度で、大学医学部を卒業した新人医師に2年間の研修が義務づけられるようになった。多くの大学病院では、それ以前に比べて研修医が担う仕事量が急増し、過重な負担が強いられるようになっている。
書名にある「731日」とはまさにその2年を指しているが、「あの2年間の大変さを忘れてしまうのが惜しい、と思ったのが本を書いた動機です。研修から1年近くたった今年に入って書き始めました」という。
内科に始まり、救命救急センターや外科、周産期医療が問題になっている産婦人科など、2年間に各所で見聞したことを素直な筆致でつづっている。病院・医療現場を取り巻く問題点だけでなく、改善すべき点についても、みずみずしい感性からの提言を訴えかけているのが本書の特徴だろう。
今では笑顔を浮かべて、振り返ることもできるようになったが、ニーナにとっては平坦な道ではなかった。
「書いているときは、いろいろな思い……特に怒り(笑)が浮かんできて、実際はこの倍くらいは書いたんですよ」というように、本書でも、当直続きのハードな日々に彼女の生理が一時なくなることも明かしているほどだ。
研修医は、1年目に最も長い内科を6カ月、外科と救命救急センターを各3カ月担当し、2年目は精神科など4科を1カ月ずつ担当して、残りを自由選択する。その限られた期間でありながら、内科の患者にHIVを告知し、外科では末期がんの患者を担当する経験もした。
「血液内科で、20歳の男性を受け持ったのですが、彼がHIVに感染していました。それだけでエイズを発症するものでなく、薬でそれを抑えれば死ぬこともない、と説明しました。彼は同性愛者でそのパートナーにも、感染を伝えることを約束してくれ、ほっとした経験があります……」
余命残り少ないがん患者への告知も、同様に深刻だ。
「外科で、余命半年から1年の患者さんを担当したのですが、その方は再婚の予定がある、という話を聞きました。これからの幸せに期待する人にそれを言うというのは……。結局、指導医が告知をしましたが、今後私が告知をすることもあると思います。がんと闘う患者さんと同じように、私たちもそれ相応の覚悟をもってしないといけないと思いますね」
本書では、まじめな話だけでなく、病院内での看護師と医師の確執や、激務のあまりセックス依存症になる女医、医師になった途端にモテまくるという男性研修医の一方で、玉の輿に乗りたがる看護師など、赤裸々に描かれる病院内の人間模様も面白い。