積水ハウスが今、アメリカ事業を強化する理由 「CES出展・MITとの共同研究」の動きがある

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この建物について少し紹介すると、天井高が3.5mと日本国内での標準2.5mを大きく上回る。アメリカの設計事務所と積水ハウスの設計部門のスタッフがプランづくりを行う中で、アメリカの顧客ニーズを知る現地スタッフの意見を採り入れ決定、採用したものだ。

一方で、外観デザインや間取りのあり方については日本のテイストも反映されている。このように、東洋と西洋の住まいづくりの要素を調和させるというチャレンジも、この建物の中に随所に見られた。

採用された住宅設備機器、家電、内外装材の多くは現地企業製で、最新のIoT対応製品もある。これらは日本国内ではまず採用することはなく、「アメリカ企業との新たなネットワークができた」と、現地担当者は言う。

現地事業者からの注目度も上昇中

積水ハウスをはじめ、大手ハウスメーカーではここ10年ほどで海外進出を積極的に推し進めている。ただ、日本の住宅技術による建物を供給するといった事例は少なく、多くが不動産開発か、現地住宅企業を買収しツーバイフォー工法など現地仕様の建物供給が行われてきた。

建物内部の様子。空間設計はもちろん、インテリアコーディネートも含め、積水ハウスと現地スタッフが協力して完成させたものだという(筆者撮影)

積水ハウスもオーストラリアでシャーウッド、中国で重量鉄骨造商品による住宅の供給はあるが、巨大市場であるアメリカでは本格的な住宅市場への参入に二の足を踏んでいた。それがCESなどでの情報発信を強化することで、より強みが発揮しやすい自社仕様での市場参入の第1歩を歩み出したわけだ。

アメリカでは日本の有力ハウスメーカー(現地ではビルダー)である積水ハウスの進出は、現地の同業企業や住宅関連企業などから強い関心を持って受け入れられているという。というのも、施工の合理化の必要性の高まりや災害が頻発する近年の状況などを受け、アメリカの住宅産業関係者も住宅供給のあり方に変革の必要を感じているからだ。

以上のような矢継ぎ早とも言えるアメリカでの企業活動の活発化は、住宅市場での厳しさが増すと考えられる日本の今後を見据えたもので、事業領域をアメリカ、あるいは世界に広げ持続的な成長を目指そうとする積水ハウスの姿勢の表れである。

ところで、CESに関して最後に少しだけ述べておきたい。日本企業のプレゼンスの低下が近年強く指摘されるようになってきたが、それは筆者にも同様に感じられた。ただ、それは出展企業の顔ぶれにあまり変化が少ないことが影響していると考えられた。

他国の状況を見ると、アメリカはもちろん、中国、東南アジア、トルコやイスラエルなどといった企業の姿も見られた。筆者には特徴がよくわからないものも見受けられたが、彼らの存在がCESの熱気を高めていたことは間違いない。

ひるがえって、世界を驚かせる製品やサービス、アイデアを有する日本企業はまだまだ多いはずだ。積水ハウスの事例に見られるように、新たな企業や業種がCESに参加し、積極的な姿勢を示すことで、日本のプレゼンス低下という状況が変わっていくのではないかと筆者には感じられた。

田中 直輝 住生活ジャーナリスト

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たなか なおき / Naoki Tanaka

早稲田大学教育学部を卒業後、海外17カ国を一人旅。その後、約10年間にわたって住宅業界専門紙・住宅産業新聞社で主に大手ハウスメーカーを担当し、取材活動を行う。現在は、「住生活ジャーナリスト」として戸建てをはじめ、不動産業界も含め広く住宅の世界を探求。

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