「欠損なき人間」はいない!世界を「金継ぐ」方法

生産と消費を乗り越え、綻ぶ「分解の世界」

堀道広さんが金継ぎした皿。2019年3月5日(撮影:筆者)
「金継ぎ」をご存じだろうか。食器などの割れた器をつなぎ合わせる技術が、密かなブームとなりつつある。なぜ今、注目を浴びているのか。昨年上梓された『分解の哲学―腐敗と発酵をめぐる思考』(青土社)で、2019年サントリー学芸賞を受賞した藤原辰史氏が、その背景を探る。

破片のつなぎ目に宿る味

「生産」でも「消費」でもなく「分解」という言葉を用いて自分が生きる世界を描き直すというわたしの執筆プロジェクトの取材のために、世田谷にある堀道広さんの作業場に伺ったのは2019年の3月だった。

研究室を埋め尽くすうんざりするほどの量の書物を読みあさる中で、割れた器をつなぎ合わす金継ぎ(もしくは金繕い)という技術に、心がひかれるようになったからである。堀さんは、『青春うるはし! うるし部』などの作品とその独特の絵柄からすでに多くのファンを獲得している漫画家であり、金継ぎ部というワークショップを主宰し、金継ぎの技術を人々に伝える漆職人でもある。

拙著『食べるとはどういうことか』(農山漁村文化協会、2019年)で表紙と挿絵を担当いただいたご縁で、堀さんの作業場を訪れる機会に恵まれた。そこには、たくさんの金継ぎされた器があった。

古来、中国や朝鮮半島から輸入された陶器は船で輸送時に割れることが多く、日本列島にはそれを漆で継ぎ合わせるという技法が発達した。漆は、現代風にいうと接着剤兼塗料であるが、天然素材なので食器に用いても人体に害はない。

わたしは、金継ぎの器をこれだけ間近で見たことはなかった。どれも、ごく普通に用いられる日常の食器だが、修復を経て、逆に傷跡から味わいが生まれている逆説がたまらない。金なので目立つように思えるが、意外と主張が少なく、器の模様にひっそりと化けている。二本の糸が絡まり合うような模様。なんだか、肩に背負い続けてきた重い荷物を下ろしたい気持ちに襲われた。

堀さんによれば、2011年3月の東日本大震災の後から、金継ぎに興味を持つ人が増えた。単純に、陶器を買い求める人が増えた、あるいは、地震で食器が割れたという理由もあるが、大切な人を失って、逆にものに対しての愛着を感じるようになった人が増えたことが理由だという。この説明はちょっとユニークだった。「人」から「もの」へ愛着がスライドする?

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