「欠損なき人間」はいない!世界を「金継ぐ」方法

生産と消費を乗り越え、綻ぶ「分解の世界」

ロケットで宇宙に飛ばす「宇宙処分」では爆発したときのリスクが高く、海溝処分では地球物理的な解明が不十分であるので、消去法として地層処分が選ばれている。私は核廃棄物の問題を若尾祐司・木戸衛一編『核開発時代の遺産――未来責任を問う』(昭和堂、2017年)から学んだが、この本の副題にあるように、10万年地球に残る危険なゴミを、次世代に残し続けることを選択した私たちの世代は、未来の世代から永遠に責められ続ける。

アンチエイジング社会から分解社会へ

アンチエイジングがこれだけ人々の心を捉える時代とは、「人間」も「もの」もプラスチック化している時代だともいえよう。最近話題になっているような、海の生きものを通じてわたしたちの体に蓄積するマイクロプラスチックの問題は、そういった社会があげる悲鳴のほんの一部にすぎない。ストローを紙製のものに変えるだけでは何も変わらない。

人間の死体も地球上の循環に負担を与えている。人間の火葬は、膨大なエネルギー消費とダイオキシンなどの数え切れないほどの有毒物質を生んでいるからだ。

おそらく、「スクラップ・アンド・ビルド」と「女房と畳は新しいほうがいい」という、近代社会をずっと支えてきた考え方を、「もの」の世界だけでなく、「人間」の世界だけでもなく、双方の世界で同時に転覆させるような思想が紡がれなければ、ただの付け焼き刃であろう。

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そのヒントは、拙著『分解の哲学』の双子のような本である猪瀬浩平(著)・森田友希(写真)の『分解者たち』(生活書院、2019年)に記されている。

埼玉の見沼田んぼで生活をする障害者たちを描いた圧倒的な濃さを誇るエスノグラフィーには、川崎の不良グループだった小山正義という人物が登場する。

20歳になって改心して、農村の近代化と都市化の中で「家の奥で座敷牢に飼い殺しになっている」人や、「綱で柱につながれている」人たちを再び外に連れ出し、居場所を作り上げたのだが、そのことを猪瀬はこう書いている。

健常者中心の同質的な都市空間を作るために排除され、「遠くのどこか」に集められるか、それぞれの家庭の内側でばらばらに暮らすことを余儀なくされた障害者を、小山は結びつけ、群れを作り、そして町の中でうごめき出す。[……]/ここにあるのは生産者でも、消費者でもなく、均質的に構成された都市空間や、整備されていない行政の障害者政策を、人々の差別意識や葛藤・軋轢を、そのまま受け止めながら、少しずつ多様な存在が生きる場に変えていく「分解者」としての動きである。

まず、生まれてから死ぬまでずっと「健常者」である人などいない、という当たり前のことを確認すべきだろう。そのうえで「障害者」と名指されてきた人たちが社会の「障害」ではなく、重要な「分解」の担い手になることを、猪瀬の作品が強く訴えているように、認識すべきである。

生産と消費を乗り越えた分解の世界、それは、ものが壊された後、その素材がまた別の新しいものの素材になりやすい、ほころぶことが前提の世界である。その世界は、土の中や海の中で人知れず物質を分解して中立化し、それを次の構成物の要素に変えていく無数の虫や微生物、つまり、分解者たちであふれかえっている。分解は、それ1個では不完全なものたちの網目のようなバトンリレーによって営まれている。

金継ぎの皿にこれだけ多くの人がひきつけられる理由は、だから、大量消費社会に駆り立てられ続ける虚しさだけではない。同質化されすぎた人間社会への疲労感もまた、重なりあっているのだと思う。

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