「最高の知性」と目される男が読む世界情勢 米中冷戦の鍵を握る金融テクノロジーとは?

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もともとは分権化されたネットワークになるべく設計され、おのおのが「ノード(結び目)」のように基点となって発信できると信じられていました。だからこそ、ほんの少数のネットワーク・プラットフォームが集権化し始めたときにみな、驚いたのです。

アマゾン、グーグル、フェイスブック……。すでにソフトウェアの分野では、マイクロソフトが市場を支配していましたから、それほど驚くことではなかったかもしれませんが、私たちはこれほどまでのスピーディーな集権化のプロセスに対する準備ができていませんでした。誰もこの巨大な分散型ネットワークを作り出したときに、独占企業が出現する機会がすでに創出されていたとは理解していなかったのです。

図書館の整理法とグーグルのアルゴリズム

同時に、広告を売ることにより金儲けをするという危険に気づけませんでした。広告販売はグーグルやフェイスブックが利益を出すベースになっています。

ニーアル ファーガソン/歴史家。スタンフォード大学フーヴァー研究所の上級フェローであり、ハーヴァード大学ヨーロッパ研究センターの上級フェロー。北京の精華大学客員教授やワシントンDCにあるニッツェ高等国際関係大学院のディラー=フォン・ファステンバーグ・ファミリー財団卓越研究員も務める。『憎悪の世紀』『マネーの進化史』『文明』『劣化国家』『大英帝国の歴史』『キッシンジャー』などの著書がある(撮影:梅谷秀司)

私は時々、すべての企業がウィキペディアのように基本的に広告で稼ぐのをやめる決断をしてくれないかと思いますよ。一度、広告収入によるビジネスモデルを構築したら、あらゆる意図しない結果が待ち受けている。私たちは今もその中で生きています。

書籍は広告を売りませんから、分権化された技術のままです。またすべての図書館は広告とは無関係で、コンテンツが無料で提供され、合理的に整理されています。本書が図書館に置かれた場合、その隣に置かれるのは最も似たような書籍か、あるいは私自身の著作か、どちらかでしょう。

しかしグーグルで情報を検索すれば、そうはなりません。グーグルは合理的に情報を整理しているのではなく、モノを売るために整理しているのです。こう考えると、第1のネットワーク化時代とはまったく異なる世界に私たちがいることを理解してもらえると思います。

――トランプ大統領の出現や中国の台頭、香港のデモなど、世界が不安定化しています。ネットワークとヒエラルキーという視点からどう読み解くことができるでしょうか。

例えば香港やそのほかの場所で噴出したさまざまな抗議活動は、過去のそれとは異なります。なぜなら、ほぼすべてのデモ参加者がスマートフォンを持っているからです。

20世紀の間は、デモ参加者よりそれを取り締まる警察のほうが確実にまともな通信手段を持っていました。だからこそ革命を望む民衆は弱体化していったのです。しかし今はデモに参加する民衆のほうが優位です。彼らはスマートフォンによって、警察よりも意思疎通ができているからです。

一般的に言って、分権化されたネットワークは、既存の階層型組織に比べてより力強くなる傾向にあります。だからこそ、ボリビアのエボ・モラレス元大統領は失脚し、チリの憲法は改正されることになり、香港と台湾の民主化を求める民衆は強化したのです。こうしたケースはこれからも増え続けるでしょう。

テクノロジーがネットワークを強化し、階層型組織を弱体化させたのです。本書『スクエア・アンド・タワー』は、こうした現象を説明できるネットワークの枠組みを提示しています。本書を読んだ後は、きっと世界が違って見え、より理解しやすくなると思います。

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