45人殺傷の「植松聖被告」が直面する裁判と現実 麻原彰晃元死刑囚の裁判でも重なる所がある

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世界を震撼させた地下鉄サリン事件でも、死者は13人だった。1つの事件での犠牲者の数は2019年7月に発生した京都アニメーション放火事件で36人が死亡、33人が負傷した事件に次ぐ規模だ。

大量殺害事件を引き起こす人物には、いくつかの共通点を見つけることができる、と私は以前に書いた『45人殺傷「植松被告」に見る大量殺人犯の共通点』(1月7日配信)

項目を列記すると、以下のようになる。

①恵まれない境遇に対する不満、こんなはずではなかった、という欲求不満が蓄積する。
②自分は悪くない、正しい、周りが間違っている、という〝他責的傾向〟が強い。
③孤立。
④自己顕示欲が強い。
⑤犯行を肯定する独善的な論理や大義が加わる。

植松被告は職場の上司に「障害者は周りの人を不幸にする。いないほうがいい」などと語り、退職後の措置入院中にも担当医に「ヒトラーの思想が降りてきた」と語っていたという。いわば優生思想だ。これが過激イスラム思想となれば、テロにも繋がる。

麻原元死刑囚にも重なる植松被告

極論すれば、こうした傾向が本当に宗教組織となってテロ事件を引き起こしたのがオウム真理教だろう。それぞれが抱えた孤独や、どうしても埋め合わせられない不満や寂しさが強烈なキャラクターを持つ教祖に引きつけられ、吸収されていく。そこに示される殺人を肯定する教義。それは教祖の説くものであって、自分には責任がないものとして凶行に及ぶ。だから死刑になった元信者の多くは、教祖の指示に従っただけと、世間を納得させられるだけの事件の動機を語れなかった。

その教祖である麻原彰晃(本名・松本智津夫)元死刑囚(執行当時63)について、地下鉄にサリンをまいて地下鉄職員2名を殺害しながらも自供が「自首」と認められて無期懲役となった林郁夫受刑者は、慶応大学病院勤務もある元医師の立場から、公判の中でこう分析している。

「自己愛的人格障害」

植松被告が「自己愛性パーソナリティー障害」と鑑定されたことを念頭に置きながら解説すると、自己愛的な人間は、自分は非常に優れていてすばらしく特別で偉大な存在である、と思っていることから始まる。これが現実の自分と一致していれば、それはそれですばらしい人物でいられるが、そうでないとなると、あるいは現実と不一致の出来事があると、激しく怒るか、ひどく落ち込むか、あるいは抑鬱的になる。それが人格障害として表れる。

麻原は自らを最終解脱者と呼び、植松被告は犯行の5カ月前に衆議院議長に宛てた犯行を予告する手紙の文面からして、まるで革命家のように自分を評している。

だが、独善的な理由で大量殺害事件を引き起こす彼らは、いずれも特別な存在である理想の自分に現実が追いついていないことに不満を抱いて、あるいは、こんなはずではなかったことに腹を立てて凶行に及び、そして法廷でもその態度を見せる。

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